ツ  シャリ(気球船)

「外に、何ぞ変わったことを聞きもした、目にもした、珍しい事とて有るかの?」

「へえ。王様は日本に帰りだいど言った俺達(おらだづ)四人に優(やさ)す(・)ぐお声を掛けて下さいます(・)た。

 んだども、(オロシヤに)残りたいと申す出だ茂次郎にも巳之助にも、また既にオロシヤの宗旨(すうす)を奉(たてまつ)ている、オロシヤに残るど伝えた善六等四人にも余り良い顔をすながったのっしゃ。

 普通に考(かんげ)ぇれば、己のお国を褒(ほ)められ、異国の者にお国に残りだいど聞きもすれば王様は喜びもすん(る)べど思うだども(のですが)・・、(王様の心は)俺は分がんねゃ(分りません)。俺(おら)の心に強く残った印象事ですた」

 左平が少しばかり、急き込んで言う。

「俺はその(拝謁の場の)後の事っしゃ。凄い物を見せで貰いますた。

俺達(おらだづ)はおったまげだべ(大層吃驚(びっくり)しました)

人が空を飛ぶんだー」

 何のことか分(わか)らん。津太夫が顔を見ると、頷いた。儀兵衛もまた頷いた。

左平が続けて語る。

「王様達が退出すた後ですた。ガラフ様が、今日はこの後に珍す(・)い見世物が有る。

(王様が)謁見の後、其方らにも見せよと仰せになったど言うのっしゃ。

 宮殿の中には芝居小屋も有るど聞いでも居たので、そのごどがど思ったべ(のです)。

 とごろがとごろが、馬車に乗って王宮の外に連れで行がれだのっしゃ(です)。

何があんだが(あるのか)分がんねゃ(ない)げども付いで行ぐすかなかんべ(ないでしょう)。

 王様もその周りの偉い人(ひと)達(だづ)もご婦人(ふずん)も、ガラフ様も見るのだど聞いで何ごどがど不思議(ふすぎ)な気になったべ(なりました)。

 着いだ大きな川の中に島があって、橋を渡りそごの広場が行く所(どご)(目的地)だったのっしゃ(です)。

 珍すい物どは小船の上に用意されだ大玉ですた。膨らんでゆらゆら揺れている大玉は幅が三、四間も有ったべ(でしょう)。

 縄を付けで両側から抑えでいるようですた。離れで見でも居たればその他の詳すいごどは分がんねゃ(分かりません)。

 何の仕掛(すか)げがあん(る)のがど思って良ぐ見れば、その大玉の下に大きな籠が付いでいたのっしゃ(です)。大玉と駕籠は何本かの大きな綱でつながれでいますた。

 王様達が遅れで登場すっ(る)ど、見物す(・)ていだ人(ひと)達(だづ)は一斉に己の左胸に右手を充(あ)でで王様に礼儀を正すのっしゃ(です)。

 それも物(もの)珍(めずら)すぐ思って見ていだれば、今度は何と何と大玉の駕籠の中に男女二人が乗ったのっしゃ(です)。

(二人は)普段着の恰好のままだったべ(でしょう)。

 首尾よく参りますたら拍手喝采をどでも言ったべが、(のでしょうが)、見物する吾等の方に向かって小旗を振ったのです。そすたら大勢の人の目の前で、解き放されだ大玉がふわり(・・・)、ふわりど浮いだのっしゃ(です)。

 人の乗った駕籠が大玉と一緒に空にどんどん上がって行くのっしゃ(です)。

いやー、たまげだー(大変驚いたー)。人の身体がどのぐれゃー(どのくらい)重いのが分がんねゃども(分らないけれども)、大玉と駕籠は高く高く空に上がって行ぐのっしゃ(です)

 周りは大騒ぎです。大きな声ですたよ。上がった、上がったという声もあれば、声にもならない悲鳴を上げるご婦人とていますた。

 見れば王様もその周りの人(ひと)達(だづ)も空を見上げでいますた。

ツ  シャリ(気球船)

 「外に、何ぞ変わったことを聞きもした、目にもした、珍しい事とて有るかの?」

 「へえ。王様は日本に帰りだいど言った俺達(おらだづ)四人に優(やさ)す(・)ぐお声を掛けて下さいます(・)た。

んだども、(オロシヤに)残りたいと申す出だ茂次郎にも巳之助にも、また既にオロシヤの宗旨(すうす)を奉(たてまつ)ている、オロシヤに残るど伝えた善六等四人にも余り良い顔をすながったのっしゃ。

  普通に考(かんげ)ぇれば、己のお国を褒(ほ)められ、異国の者にお国に残りだいど聞きもすれば、王様は喜びもすん(る)べど思うだども(のですが)・・、(王様の心は)俺は分がんねゃ(分りません)。俺(おら)の心に強く残った印象事ですた」

 左平が少しばかり、急き込んで言う。

 「俺はその(拝謁の場の)後の事っしゃ。凄い物を見せで貰いますた。

俺達(おらだづ)はおったまげだべ(大層吃驚(びっくり)しました)

  人が空を飛ぶんだー」

何のことか分(わか)らん。津太夫が顔を見ると、頷いた。儀兵衛もまた頷いた。

左平が続けて語る。

「王様達が退出すた後ですた。ガラフ様が、今日はこの後に珍す(・)い見世物が有る。

(王様が)謁見の後、其方らにも見せよと仰せになったど言うのっしゃ。

宮殿の中には芝居小屋も有るど聞いでも居たので、そのごどがど思ったべ(のです)。

とごろがとごろが、馬車に乗って王宮の外に連れで行がれだのっしゃ(です)。何があんだが(あるのか)分がんねゃ(ない)げども付いで行ぐすかなかんべ(ないでしょう)。

王様もその周りの偉い人(ひと)達(だづ)もご婦人(ふずん)も、ガラフ様も見るのだど聞いで何ごどがど不思議(ふすぎ)な気になったべ(なりました)。

着いだ大きな川の中に島があって、橋を渡りそごの広場が行く所(どご)(目的地)だったのっしゃ(です)。

珍すい物どは小船の上に用意されだ大玉ですた。膨らんでゆらゆら揺れている大玉は幅が三、四間も有ったべ(でしょう)。

縄を付けで両側から抑えでいるようですた。離れで見でも居たればその他の詳すいごどは分がんねゃ(分かりません)。

何の仕掛(すか)げがあん(る)のがど思って良ぐ見れば、その大玉の下に大きな籠が付いでいたのっしゃ(です)。大玉と駕籠は何本かの大きな綱でつながれでいますた。

王様達が遅れで登場すっ(る)ど、見物す(・)ていだ人(ひと)達(だづ)は一斉に己の左胸に右手を充(あ)でで王様に礼儀を正すのっしゃ(です)。

それも物(もの)珍(めずら)すぐ思って見ていだれば、今度は何と何と大玉の駕籠の中に男女二人が乗ったのっしゃ(です)。

(二人は)普段着の恰好のままだったべ(でしょう)。

  首尾よく参りますたら拍手喝采をどでも言ったべが、(のでしょうが)、見物する吾等の方に向かって小旗を振ったのです。そすたら大勢の人の目の前で、解き放されだ大玉がふわり(・・・)、ふわりど浮いだのっしゃ(です)。

人の乗った駕籠が大玉と一緒に空にどんどん上がって行くのっしゃ(です)。

いやー、たまげだー(大変驚いたー)。人の身体がどのぐれゃー(どのくらい)重いのが分がんねゃども(分らないけれども)、大玉と駕籠は高く高く空に上がって行ぐのっしゃ(です)

周りは大騒ぎです。大きな声ですたよ。上がった、上がったという声もあれば、声にもならない悲鳴を上げるご婦人とていますた。

見れば王様もその周りの人(ひと)達(だづ)も空を見上げでいますた。

俺(おら)は大玉(たま)も駕籠(かご)も横に流れで行くのは吹いでいる風の所為(せい)がど思いますたよ。

途端に、どうやって降りて来(く)ん(る)のが、無事(ぶず)に帰(けゃ)って来(こ)れん(る)のがど今度はそればっかり思えで、他(ひ)人事(とごど)とは言ってもハラハラす(・)てきます(・)た。

大玉(たま)も駕籠(かご)もどんどん離れで行くのっしゃ(です)

遙が遠ぐまで飛んでって(行って)、遠眼鏡(とおめがね)(望遠鏡)を取り出すた方もあったべ。

いやー、今思っても、たまげだー(驚いたー)」

 「人が駕籠に乗って空を飛んだと?」

「へえ、見ていた俺達は皆々同ずっしゃ(同じように驚いたのです)」

(参考図―早稲田大学図書館所蔵本、環海異聞に載る「シャリ図(気球船)」と「風船飛走図」))

俺(おら)は大玉(たま)も駕籠(かご)も横に流れで行くのは吹いでいる風の所為(せい)がど思いますたよ。

 途端に、どうやって降りて来(く)ん(る)のが、無事(ぶず)に帰(けゃ)って来(こ)れん(る)のがど今度はそればっかり思えで、他(ひ)人事(とごど)とは言ってもハラハラす(・)てきます(・)た。

大玉(たま)も駕籠(かご)もどんどん離れで行くのっしゃ(です)

遙が遠ぐまで飛んでって(行って)、遠眼鏡(とおめがね)(望遠鏡)を取り出すた方もあったべ。

いやー、今思っても、たまげだー(驚いたー)」

「人が駕籠に乗って空を飛んだと?」

「へえ、見ていた俺達は皆々同ずっしゃ(同じように驚いたのです)」

(参考図―早稲田大学図書館所蔵本、環海異聞に載る「シャリ図(気球船)」と「風船飛走図」))