ス オロシヤ語の地球絵図
「志村殿、昌永殿、右仲殿、明日からはぺテルブルグがごと、それから帰りの道、ぺテルブルグからオホーツクまでの戻り道がどの様に有ったのか、その質問に入って良いかの?」
「はい。結構に御座いますが、地図を拝見すればイルクーツクからぺテルベルグまでも相当長い距離に御座います。
聞けばきっとに絵に出来ることとて多くあると思います故、ぺテルブルグに行く道中の事もお聞きになって下され」
「吾は後に思い直したところで御座いますが、
彼らがお殿様(仙台藩主、伊達周宗)に献上した地球絵図を改めて見ながらに質問されては如何でしょうか。
彼らが持参した地球図は吾らの物(既に持っていた物)よりも新しいようにも見えました。
光太夫殿が上陸したと語るアムチトカという島(環海異聞に「アミセイッカ」の表記。以後、アムチトカ)が吾等の持つ地球絵(図)には描かれておりません。
また、五大洲(ここでは、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、南アメリカ、北アメリカ)もより鮮明ではないでしょうか」
「志村殿,、右仲殿。昌永殿の言うオロシヤの地球絵図は、江戸の番頭役にある藩(仙台藩)の御奉行様、平賀様(平賀蔵人義雅)に昨日に呼ばれもしての、(聞き取り)調査の役に立つかも知れぬと津太夫等から御屋形様に献上された物をお言葉を添えてお預かりした物じゃ。
昨夜も遅くに二人で先に見もして驚きもしたところよ。
だが当然のことなれど、町や村、川等の名がオロシヤの文字で書かれておっての、読めも理解も出来ぬところも多く有る。されば混乱してはならじと(見せるのを)控えて居った。
吾等が用意した地球絵で引き続き聞きもしていこうと話し合って居た所よ」
頷きながら、志村殿の意見だ。
「確かにそれも御座いますが、三人は吾等の知らぬオロシヤ言葉で町や村等を話すやもしれません。
それでオロシヤのその町や村の呼び方も、また、読みならずオロシヤ語の発音、綴りの特徴も知ることにもなりますまいか。
明日からにもその地球絵図を三人に見せながらに質問していく方が得策では御座いませんか?」
思わず、確かにと手を打った。オロシヤ語の勉強、今後の翻訳が事、通詞が事(通訳)が必要とあればその役に立つこととてあるかも知れぬ。
かつて筆写させて貰った光太夫殿(大黒屋光太夫)が千五百の言葉の検証と、新たに知る語句も用語もあるかも知れぬ。
「分かり申した。明日からにオロシヤが地球絵図を前に質問もしよう。
となれば、(吾の)寝間に置いている絵図を今に持って来よう。志村殿、右仲殿にも先に見て貰わねばの。
疲れてもいよう。差し入れの握り飯がまだ残って居る。熱いお茶を淹れて、口にして腰を伸ばして待って居て下され」
確かに昌永や志村殿の言うとおりだ。眺めているだけでは地図上のオロシヤ文字を読めぬ。発音できぬ。だが、津太夫達に何度も聞きしこれまでのオロシヤの町の名、宿場駅の名を頭にも耳にも呼び戻すと、何となくその町の名、宿場駅の名が知れるではないか。
この地図を見ても、イルクーツク(irkutsk)からトボリスク(Tobruk)、モスクワ(Moscow)を経てペテルブルグ(Peterburg)の事を言うのだろう、サンクト・ピチルブールク(sannkuto/Peterburg)までは何と遠いことか。町と町との間が何里離れているか計算するのは後の事だ。
明日にはこのオロシヤ作成の地球絵図を見ながらにどんな話が出てくるのか。都市の名を充てずっぽに読みもして町々を色々に想像しもすればワクワクして来る。
(吾も)腹が空いた。戻ろう。