「京の話に戻るが、元俊殿の学塾改築増築は、息子元瑞殿の将来も考えての事とも取れるの。
竹山先生同様、学術の振興、教えの場を絶やしてはならぬとの思いが伝わって来る。良い話を聞いた」
「ところで、叔父上、所を訪ねるに大坂の街の何々筋の「筋」は大体に理解できもしますが、京では何であの様に「上ル」とか「下ル」とか、土地の名の後に付くのでしょう。
面白くも不思議にも思いました」
「ハハハ、吾と同じことを考えるの。吾は長崎遊学の途中に初めて京に上った。
その時、先生(杉田玄白)の使いで堀川通り上長者町という所にあの柴野栗山先生を訪ねるに、案内する小僧の語る「上ル」「下ル」を聞いて何じゃ?と思ったものよ。
その物言いでは、まだその意味を理解していない様じゃな」
「はい。御存知ですか?」
民治が来たとお京にでも聞いたか、玄幹が顔を出した。
「小父上、お元気でしたか。何時に(江戸)戻られましたか?」
その口調から、少しばかり興奮が感じられる。
「うん。もう五日ばかりも前になるの。
ご報告が遅れた事、叔父上にお詫びしていたところじゃ」
「中山道は如何で御座いましたか。高崎も、軽井沢と言う所も行きましたか?。
煙を吐くと言う浅間山を見ましたか?
何処まで行って来たのですか、旅の事、是非にお聞かせ下さい」
「そのことは後で聞くが良い。今、京都の話になっての。
京の土地の表記に「上ル」とか「下ル」とかが出てくる。それが何を意味するかとの問じゃ。。
(吾が)京に在って知りもしたことをこれから話すでの、一緒に聞くが良い。
いずれ後に役立つことも有ろう。雑学じゃ。
京都と言えば天子様の在ます所。その天子様のお住まいになる処を内裏とも言う。
庶民から見れば内裏は北の方角に据えられた。
つまり天子様に敬意を表して北に向かうことを「上ル」、南に向かうことを「下ル」と言ったらしい。
平安京の時代からの慣わしと聞くが、その平安京が天子様の住む御所を中心に碁盤の目状に整備されたからとも言える。
己の今居る場所を付けて一条上ルとか、下ルとか言うと、京に居った時の柴野栗山先生を訪ねるに道案内にたった小僧の教えよ。
小僧に、生まれはこの京都かと問えば、播州(現、兵庫県)の片田舎の村の出と応えた。
良くに京の町を勉強して居ったよ」
「内裏の方角に向かうは「上ル」、離れるは「下ル」と分かりましたけど、何故に東西は「入ル」なのでしょうか?」
「ハハハ、そうじゃの。それを(小僧に)聞かなんだ。
吾も分けを知らぬが、京の市民の慣わしとでも言おうか。
「東に入ル」、「西に入ル」はその言葉の通り、東に行くこと、西に行くことを意味するのじゃろうが、今度、京に上ったら誰ぞに確かめるが良い。
面白い謂れ話が聞けるかもしれぬぞ」
「父上、是非に吾の京上り、大坂行き、長崎遊学をお許し下され」
民治への応えだったが、玄幹が先に己の胸の内を明かした。そのような話になるとは正直思いもしていない。
「折角に来たところだ。夕飯を食べて行くが良い」
玄幹への答えを濁した。
「はい。そのつもりで来ています」
「小父さんが来ると、何時もより良いものが食べられます。
それまで旅のこと、諸々お聞かせ下さい。吾の部屋に参りましょう」
玄幹の言い訳に苦笑した。
お茶をお持ちします、寄って来たお京が二人の背中に向かって声を投げた。
白磁の何時もより大きめの急須を手にしている。
「先に吾にお茶を頼む。それで良い」
[付記]:大リーグのオールスター戦。観戦しました。ヒットに、大きなフアール。大谷選手は存在感を示しましたね。流石です。
でも、私が感心したのは、いや、涙もろくなったからでしょうか。一番に感動したのは、良かった良かったと思ったのは菊池雄星選手の家族と一緒にレッドカーペットを歩く姿でした。
私の住まいから西部ライオンズの二軍練習場へは自転車で15~20分。まだ、ライオンズ球団に入ったばかりの菊池選手を応援に何度か二軍練習場に行きました。勿論、私の顔など覚えても居ないでしょう。金網の外から、「雄星頑張れ、菊池頑張れー」と応援を送ったのが、昨日の事のようです。
雄星選手の旅たちをテレビで見ながら、テレビに向かって手を振りました。身体に気を付けろ、必ず目が出る、それまで頑張れー、弱音を吐くな。二年目でしたか、三年目でしたか、彼が大リーグのオールスターに出られると知って、良かった、良かったとそこまでで、己が小説を書くに夢中になり、大リーグでの活躍も応援もおろそかになりました。
それが、また大リーグに注目させるようになったのが大谷選手の登場でした。同じ花巻東高校の出身で、またまた雄星君如何した如何したと、彼の活躍もまた気にするようになりました。
彼の結婚すら知りませんでした。それがあの通り、レッドカーペットを奥さん、子供と一緒に登場です。テレビ画面に向かって、頑張ったなーと己の目がウルルでした。
やっぱりスポーツは良い。シリヤの首都攻撃。何をやっているんだイスラエル。一人の指導者によって、相手の国の住民だけでなく自分の国の住民をも傷つける、恐怖に陥れるんだと分からないのか。同じテレビ画面を見ていて、これがもう一方の現代なのかと悲しくもなります。戦争、絶対反対。
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