揃って先生と伯元殿に礼を取った。先生は、士業殿から先に聞かされても居ただろうが、吾から星野殿とお三方を簡単に紹介した。

「驚かせて悪かったの。

 先日に、其方の所に観に行って来た伯元が言うを聞いての、吾の周りに居る者に声を掛けた。

 明日の(蘭学会)宴に参加予定にない者がこれほどに集まりもした。

 皆、木骨を観るのを楽しみにして居る。吾一人観るは勿体ないでの。

 伯元から聞いて、西洋医学を学ぶに、解体新書の語るをより知ってもらうに絵図よりも身幹儀の方が説得力があると思いもしたところよ。

 星野殿、初にお面に掛るにお許し下され。俄かに吾が社中の者に声掛けをした」

 不意にお声を掛けられて驚いた表情をした星野殿だ。

 だが、即座にお応えした。

「いえ、思いもかけず皆様お集まりで、却って恐縮して御座います。

 大槻様から先生が観覧を望んでいるとお聞きして、天にも昇る心地がした所で御座います。

 今日にお招き頂きましたことこそ、誠に有難う御座います。

早速にご覧頂きとう御座います」

 星野殿も見守る中、弟子三人が手際良く木骨を並べていく。象牙色の木骨が緋の毛氈に余計に目立つ。頭蓋骨から足の先の骨まで吾の所に有ったと同じように身体の中心線に沿って並べる。それは、国(広島)に在っても何度もそうしていることだなと改めて思いもした。

「人骨だ!」

 誰の声か分らぬ。途中に、見学する者の中から声が出た。

木骨が並べ終わったと見るや、それまで凝視(ぎょうし)していた先生は、近くに見せて貰っても良いかの、手にしても良いかのと星野殿に確かめた。

 席を立つときに少しよろめいた先生だったが、伯元殿が先生の腕を取った。

 吾が初めて木骨を見せて貰った時と同じだ。手に取って頭蓋骨の中を覗き込んだ。

コイテルの解体書に合わせ見るに、時折首を縦にして頷く。木骨の精密なことに先生とて驚きの目だ。

 暫くは誰もが先生のすること(行動)を見遣(みや)った。

「星野殿。これを皆々が手にして観るをお許し下さらんかの?

皆々の勉強になる。是非にお許し下され」

 吾の顔を少しばかり伺いもした星野殿だったが、即答した。

 「はい。是非に皆々様、覧下され」

伯元殿の仕切る声だった。

「一遍に皆々がこの緋毛氈の上では混乱もする。

 右から順々に四人一組になるが良い。

 手にするにも大切に扱うが良い」

右手を広げて指す先の四人から動き出した。