六 星野良悦

             ア 三人の芝蘭堂入門

「先生、お客様に御座います。

 星野良悦様と言う(かだ)に(と)、他にお三方が同行()て御座います。

 お医者様だべが?(ですか?)、ご存()の方で?

 可笑(おか)なもんだ。星野様は総髪で、後ろのお若い三人は一人が坊主頭で一人は商人頭、もう一人は総髪だべ。

 銭子(ぜにこ)になっ(なる)から入門(/)たい方だと良いけんど(けれど)」

 報告しながらに、口元を抑えもするお京だ。

 香月(かづき)殿(芝蘭堂の門下生、香月文禮(かづきぶんれい)、大槻玄沢の門人姓名簿に寛政九年四月十五日(入門)と記帳している)と今日のこの日時(とき)に星野殿等と会う約束をしたのは一か月ほど前だ。

 星野殿は芸州も田舎の町医者ながら、木造の人骨を作った人物。その木骨は藩主に賞賛されてもいるとお聞きしている。

是非にも大槻様に木骨(もっこつ)を見て貰いたいと願っていると一年も前から度々香月殿からお聞きしていた。だが、解体新書の改訂の最後の加筆修正がためにそれどころでは無かった。

 凡そこの一年、吾の処に入門したいと来る御仁さえ入門をお断りもしてきた。

まだ会っても居なければ良くに分からぬ。今も時折混じるズーズー弁は兎も角も、報告するにその言葉遣いと姿勢で良い訳がない。後でお京に忠告せずばなるまい。

 玄関口に立つ白髪交じりの総髪の御仁は丁寧に頭を下げた。後ろに控える三人も殆ど一緒に一礼した。

「お初にお目にかかります。吾は芸州も堺町で医業を営む星野良悦と申します。

 先に杉田玄白先生の解体新書を目にすることが出来て、また、大槻先生の蘭学階梯を読むことが出来て、診療の(かたわ)ら蘭方の教えるところも蘭語も己で勉強して来たところに御座います。

 後ろの三人は吾の所に出入りしている若者に御座います。

 年齢(とし)が違えども共に西洋医学を勉励し、是非に大槻様の所で蘭方も蘭語も学びたいと志願する物に御座います」

 お京が後ろの三人に目を遣る姿が目に付いた。

「初めてお会いするに、来ていきなりの申し出は重々ご無礼なことと存じますが、

 是非にこの三人の入門をお認め頂きたく、参じた次第です」

 星野殿は吾と同じ年頃にも、五十近い年齢(とし)にも見る。後ろの三人は二十代に在ろうか。

「ここ(玄関口)での立ち話ともいかぬ話に御座れば、先ずはお上がり下され」

 星野殿のお顔が緩んだ。お京に、お茶を淹れて後に持参するよう指示した。

 座敷に入って吾が片隅に積んであった座布団を手にすると、若い三人が駆け寄ってそれを手伝った。その所作だけで弟子入りの件の第一関門は突破だ。

「吾は師と言えるほどにはござらぬが、

 三人は長く吾を手伝いもしておれば医者の心得は持っている者に御座います」

 床の間を背にした吾に、改めて礼を取った星野殿が口にした第一声だ。吾の門人を語る大概は、何処ぞの藩主藩医等誰かの紹介状を持参し一人で訪ね来た。このような場はかつてなかったと思う。

言葉尻からも星野殿の子弟思いの心が知れた。後ろに控える三人は、師の紹介に順々に黙って頭を下げた。

 右に控えた土岐(とき)(じゅう)(こつ)は広島藩藩士の三男で、長年、星野殿の助手を務めてきた。今に星野殿の娘子(むすめご)許嫁(いいなずけ)だと語る。

(星野(土岐)(じゅう)(こつ)は後に広島藩の侍医になる)

 真ん中に在る冨川(とみかわ)良元(よしもと)もまた広島藩藩士の(せがれ)で、地元の町道場で師範代も務めるほどの剣士だったと言う。医学医術を藩医後藤松眠(ごとうしょうみん)殿に学んで居たが造り酒屋の商家に婿入(むこい)りし、それを機に吾の所で医術を学ぶようになったとの紹介だ。

 土岐も冨川も三十四(歳)にして、今にこの江戸の京橋南とか、周りに田畑も見られる仕舞屋(しもたや)で凡そ四年間共同生活をしているのだと言う。

 時に出かけて、藩医の後藤殿や恵美三(えみさん)(ぱく)殿、香月殿から蘭方を教えて貰っているとの説明だ。二人はそもそも幼き頃から友人の間にあるとも語る。

 

[付記]:一昨日、日曜日。楽しみにしていた日本ダービーでした。新馬、特別戦に連勝した馬は3頭居ました。

13番のクロノワデュール、17番のマスカレードボール、3番のエリキングです。それぞれの過去の戦績を見ながら己を信じ、己の経験則から13番クロノワデユールを1着と固定し、2着馬17番、3番とする馬単各500円を買いました。また、万が一を考えて、その逆もあると、馬連を各200円買いました。どちらも当たりで配当金が5470円。

 これで春の競馬も終わりです。桜花賞、皐月賞、NHKマイル、天皇賞、オークス、ダービーに各3000円、1万8千円投資して、配当金が、オークス、ダービーの当たりで1万410円。やっぱりギャンブルだね。でも執筆の合間の楽しみでした。

 

 友人から「有料プラン会員」とあるが、作品を呼んで何時からお金を取るよになったのだと誤解した問いにびっくりしました。かつて、投稿した私の作品周りにレオタード姿で四つん這いになった女性の絵柄が付着していたので、この4月からスタートしたというブログ運営事務局の投稿者応援プログラムに参加しました。

 高校生も読んで下さっていると承知していますので、投稿した作品周り等をクリーンに保持して頂く、小生を応援して頂く経費です。

 小生がブログ運営事務局に支払うもので、読者が金銭を負担する物ではありません。誤解のないようにお願い致します。

確かに「有料プラン会員」」は誤解を生むなあーと思って居ます。ネーミングの再考を期待します。