四 赤子の誕生と妻、莎葉の死

 四日目までの対戦で東の大関小野川は四番全勝。また、西の大関雷電は既に五戦全勝だ。まさに吾の希望していた通りの展開にあった。二人共全勝のままに進み、楽日(千秋楽)決戦となればこの上無い組み合わせだ。

 この長雨(ながあめ)も影響しているのだろうか、流行り風邪が終わりを告げない。大相撲も延期、延期の連続に、とうとう五日間開催で打ち切り、この先、中止と伝わってきた。

 相撲がどんなものか段々に分かって来た陽之助に、常人と異なる体型の生々しい肉弾戦と、観る人々の興奮を目の前に見せてやりたかったが当てが外れた。

 何があっても必ず(大相撲を)見に連れて行くと約束していただけに、それが中止となって陽(陽之助)は吾よりも一層ガッカリしている。

             

 あちこちの桜の花が咲きだした。()()のお腹がいよいよに大きくなった。

陽は気を取り直して、吾にも弟か妹が出来ると喜んでいる。

 それを見ると、兎に角、無事に元気な子が生まれれば良い。男でも女でも良いと思う。陽の喜びようは弟妹(きょうだい)が出来るとの事のみでは無かろう。小野川が東の大関、雷電が西の大関とある春場所の大相撲番付表を藤七殿が届けてくれたからだろう。

 機嫌を直したどころか、頬を膨らまして喜び勇んだ顔をしている。吾とても、谷風、小野川が大関を張る番付表を持っていても、この番付表は初めて見る。興奮を覚えた。近頃に始めた古代の土器等の収集の比ではない。

 か細い()()だが、お腹の子に元気をもらっているのだろうか、見た目にもふっくらとした顔になっているし穏やかな顔つきだ。

「どうだ、変わりないか。重いものは持つなよ。お京でもお富でもお通さんでも、用事があれば頼むが良い」

「ほほほほほ、有難う御座います。私は大丈夫です。

 それよりも、あれ程楽しみにしていたお相撲が見られないのは旦那様も陽様も残念で御座いますね。

 夏にも御座いますでしょうか。その時には、初日に行かれたら如何でしょう?」

「いや、夏の開催は大坂ぞ。芝の堺屋の藤七殿(芝口の薬種屋)が言うには、秋は浅草八幡宮だそうだ」

「陽様に、秋にはこの江戸で開かれる、浅草八幡宮で大相撲がある。その時には初日に連れて行くとお話し下さりませ。

 そう教えればそれだけでも大きな慰めになります。喜びもします」

 

 良い天気が続く、桜の花が一層に輝いて見えるはやはり青空の広がる日だ。()()の陣痛が始まったと、お富に聞いても今日は落ち着いて居られる。

 先の赤子は不幸なこと(死産)であったが、ここ二、三日の会話から()()を信じて居る。

「今度は大丈夫、お元気な子です、お腹を蹴ります」。

 子を上げるは己が出来るのに・・、此度(こたび)はお通さんの(すす)める産婆に頼んだ。

二人の子を取り上げてもらった、今に元気に育っているとの言葉を飲んでそれに(あやか)りたい。