「遠眼鏡(望遠鏡)は天文のお好きな方に覗かせていただいたことが御座いますけど、虫目がねは未だに・・・。
観ると言えば先の話に戻りますが、商売仲間から今、二十日から始まる大相撲春場所を見に行こうと誘いを受けても御座います。一日、御一緒致しませんか。お供させていただきます」
「この春は浅草(八幡宮)と聞かぬが、深川(八幡宮)か?、回向院(本所)?」
「はい、本所の回向院で開催されます。
谷風が亡くなったとて雷電が居ります。
大関に昇進出来たは谷風が亡くなったからと言う者も居りますが、何の何の、雷電の強さをご存じない方の戯言でございます。
大坂ではとうの昔(寛政三年)から大関を張っております。
この春(三月)は谷風の弔い合戦で、東の大関を張る小野川に負けられぬと吾等商人仲間にも雀が居りまして、今からに大きな声でぴーちくぱーちく噂しております。
お忙しい身でもございましょうけど、是非に一日、御一緒にお遊び下さいませ」
「うん。行きたい。是非に観たい。して、優勝の掛かった後半戦の方が良い」
「手配が整いましたらば、ご連絡致しましょう」
藤七店から多四郎殿が店に廻って小筆に墨、紙を買い求めて戻ると、お京が家の前の表通りの掃除をしていた。
陽之助とても箒を手にしていた。何かあったかと聞くと、何時に通ったのか分からないけど、使いから帰ってきたら家の前にぼたぼたと馬糞が続いていたのだという。
ぷりぷりしながら、馬子が始末していくべきだと語る。最もなことだ。
「して、肝心の使いの方は済んだのか?」
「はい、七味唐辛子に醤油、奥様のお言伝の通りに買い物を済ませでおります。
少しばかり時をズルすて、浅草寺まで足を延ばすて来ましたけど・・・」
言ってから、ぺろりと舌を出した。悪びれたところが無い。
「えっ、行って来たと?、今日からの観世音御開帳では無かったか?」
「はい。凄かったすよ。人、人、人(見物人)。押すな押すなです。門前の遙か彼方から並ぶ行列ですた。
風神雷神のことはお聞きすていますたけど、その間に何があっ(る)かご存ずですか」
「いや、知りもしない。
(御開帳が)始まっても凄い人になる。身の安全のために三日、四日してからに出かけるが良い、仏様も風神雷神も逃げも隠れもしないと皆々に忠告したではないか」
「はい。んでも、居ても立っても居られねゃ(居られない)のが俺の性分だで。
先生、分かってんべ(分っているでしょう)」
言いながらニコニコしている。他人の忠告に耳を貸しながらも思い切った行動に出ることの多いお京だ。
「風神雷神は神社仏閣の阿吽の金剛力士像みたいな物だろう。
その間は人の通る所とて太い梁になってもいよう。その下に何も無かろう?」
「先生。所がところがです。
梁の下に「す(し)ん橋」と書かれた大きな提灯がぶら下がっていますた。
寄進すたのが本堂と山門の屋根を請け負ったお方だとかで、大提灯には私には読めねゃ(読めない)屋号の何とかと、三右衛門と大きく書かれてありますた」
聞けば早々に行ってみたくもなるが、お京の話の限り三日、四日どころか十日、二十日も先に見に行った方が良さそうだ。
浅草寺は寄って来たばかりの日本橋も南、三丁目の多四郎殿が店よりももっと先になる。
「父上、連れて行って下さい」
陽之助の要望に声にせずとも頷いたが、心の中では先に大相撲に連れて行くぞと呟いた。
[付記]:大槻玄沢の「官途要録」に登場する人物の略されている苗字、職責等を知るために、また杉田玄白の「形影夜話」に出てくる弟子だという人物の素性等を調べるために、凡そ二年ぶりに川越市立図書館を訪問しました。
所沢市内の図書館で知ることが出来ないとき、また、国会図書館その他の図書館からの借り出し、閲覧を待つよりもと、時にお世話になっている図書館です。
川越が東京近くにある「小江戸、蔵の街」として人気が有ることは所沢に引っ越してきた凡そ50年前から知っていますが、土曜日とはいえ、その人混みに驚きました。訪れる観光客が年々増加している、街並みもより一層綺麗になった、確かに江戸を感じることも出来るな、と思いながらに早めに昼食を済ませてから図書館に行こうと決断しました。
ところが所がです。大正浪漫通りに入って、スイーツ、喫茶店に鰻屋が多くて、適当な食事処が見当たりません。鰻屋さんは4000円から6000円が相場です。年金生活の身に有る小生には一度に4、5000円の昼食は無理です
そこで、図書館に来るたびに利用していたお好み焼き、もんじゃ焼き店は今は如何しているかと気づき、図書館に向かう路でもあり行ってみました。
大正浪漫通りの右に川越商工会議所をみて、道を隔てた斜め向かいに観光案内所があります。その道に立つと、真正面に川越キリスト協会の白い十字架と歴史を感じさせる建物が目に入って来ます。歩き出して、左側に鰻屋が並び、その次に、ありました、在りました。お好み焼き、もんじゃ焼き『かぶや』」が有りました。玄関が小さく入りにくいのですが立看の旗が今も大きく出ていました。店内が椅子席とお座敷になっているのも変わり有りません。
お好み焼きにライス、みそ汁付きで800円。実にリーズナブルな料金です。入店したのが午前11時半。小生一人の客でした。その所為もあるのでしょう。目の前で丁寧に注文したお好み焼きを焼いてくれました。直径十五センチ、厚み約二センチの丸々としたお好み焼きに仕立て上げて呉れました。
ソースにマヨネーズで味を取り、小生には満足の行く腹ごしらえでした。生ビール一杯が500円。図書館に行くのに顔に色が出なければ良いかと不埒な考えで注文しました。それでも1300円の昼食代は鰻よりも良かったかなと思いながら店を出ました。
川越キリスト協会前から左に道を取り(川越市役所に向かう道)、百メートルも行けば図書館入り口、「ここを曲がる」の表示が出てきます。「明治35年創業、東洋堂とある『いもせんべい店』」を右に曲がると、川越郵便局、川越市立図書館が並びます。
「三百藩家臣人名録辞典」(人物往来社編)、日本姓氏歴史人物大辞典」(角川書店編)を当たりましたが、小生の探し当てたい人物は僅か2割しか知り得ず、低打率でした。残念。
『かぶや』さんに注文、意見を言わしてもらうと、100円アップでも味付けに「青のり」、「削り節」が有ればもっと良かったのではと思います。
今週の土曜日から春の川越まつりが予定されています。お出かけの説には、昼食に有らずともお休み処に一考しては如何でしょ
