ク 寄り道―祐天寺(ゆうてんじ)法華寺(ほっけじ)(りゅう)泉寺(せんじ)

 珉治殿と書生が喰い終わるのを待った。

 二人が喉を潤したのを見計らって、そろそろに帰り路になると曽生が言う。

 小屋を出た。

「うーん。この天気だ。ただに帰るのはもったいないの・・・。

 何処ぞに、寄る良い所はないかの?‥・」

「それ、それ。飯を食いながら時を告げる鐘が聞こえていたでしょう。

それから計ってもまだ九つ半(午後一時)にならんでしょう。

陽が長くもなってござれば、時間はたっぷりござる」

 吾の提案に即に続いて言う山田殿だ。

 吾も賛成と新山、竹内、井上が続いた。

「せっかくに来たのだ。名に聞くようなところに寄り道しましょう」

 今日の仕掛人、曽生もまた賛意を示したとあれば好都合だ。明卿が黙って頷く。

「行先はどうする?、何処にする、ここから名所というと・・・」

 吾の投げかけの言葉に、堀内(ほりのうち)碑文(ひもん)()驪山(りざん)(目黒不動尊)だと行先の候補地が上がった。だけど、皆の意見が一致しない。

言い出しっぺの吾と珉治殿とで近くにあった百姓家に寄ってみた。

 だけど、無駄足だった。

 出て来た老爺(ろうや)は年寄りばかりの家だと言い、川崎大師とか鎌倉の極楽寺とか、何故か帰り道から大きく離れた所ばかりを口にした。若い頃に行ったことのある思い出の場所だったか。

 皆の足も、吾の足の具合も考えれば無理なく寄れるところが良い。しかも、まだ行ったことのない土地が良い。夜分になっても今日のうちに帰れるところだ。

如何(どう)かの?、碑文(ひもん)()にしてみないか。

 田畑に原っぱばかりだが吾はまだ足を踏み入れたことがないでの。途中、確か祐天寺(ゆうてんじ)を見ることも出来る」

 「()し、それで()い。碑文谷に行ってみよう」

 吾の提案を明卿が支持した。士業が頷き、曽生も賛成した。それで進路は決まった。

 

 来た道、道玄坂を下る。途中の道端に野薔薇を見つけた。後々に薬用にせんと少しばかりその花を摘んでいて皆に後れを取った。

 何人かが酒、飯の看板が風に揺れるところに入るのが見えた。

 吾を待っていてくれた明卿や士業、書生等と一緒に、その居酒屋を覗いた。

 皆と一緒になって盃のやり取りを重ねた。酒の肴として鶏卵を吸った。

 足腰に少しばかり疲れを感じているものの、腹の中から元気が出る気がして来る。

体力の回復を実感しながらに、店の(あるじ)に碑文谷への道、祐天寺への道を尋ねた。

「はい。この坂をもう少しばかり下ると小さな橋が出てきます。

そこから右に回りなされ。それを行けば真っ直ぐに祐天寺に行けますでの、

その先が碑文谷で・・」

 

[付記]:朝、午前四時から投稿を待っていてくれる方もいるのに、投稿を今の時間(午前11時30分)になっても申しわけ御座いません。パソコン上、トラブルが生じて、今にJCOMの遠隔サポートを活用しました。解決したので、今に投稿させていただきます。

 また、早稲田大学図書館、特別資料管理課から関係資料の使用許可がおりましたので、12月16日から作品の中に資料も添付してまいります。

 この後、不慣れな絵図のスキャン等の作業を開始します。77歳の小生、何時も、おっかなびっくりでーーす。

 今後とも宜しくお願い致します。