次の「助語(じょご)」「點例(てんれい)」もまた良沢先生の長年の研究の成果によるところが大きい。先生の「助語考」「點例考」を活用させていただいている。

 「助語(じょご)」は蘭語で「リットウォールド」と言う。助語の数は多く、成語の間にあるイン(ⅰn)、ヘット(het)、デ(de)などの類だ。また、日本の言葉に訳して理解するときは、その使われてある場所によってその意味するところも変わってくる。

 助語を良く理解していないと一文を通して理解するとは出来ない。しかし、未だ蘭書を見たことも無い者に助語の一つ、二つを話して聞かせても漫然として理解はできないだろう。故に蘭学を(こころざし)、学ばんとするに至って参考となる書を活用すること、師となる者(学者)に聞いて(蘭学階梯には尋問しとある)覚えるしかないと認めた。

 「點例(てんれい)」は志那(中国)の文章に見る句読(点)、段落のごときものだ。この點例を知らないと文章等を正しく理解しがたい。

(蘭学階梯には蘭化先生の點例を(うつ)し学者の求めに備えるとある)。

 「、」はコンマにして、訳は分點。文中で言いたいこと(意義)がまだ終わっていないが、一名、一物、一事等を言い表したところに記す。同じ意味を持って使うものに「/」もある。

 「;」は「ピュンクトコンマ」にして、訳は牛節點。この点は一事のうちに二節、三節に分かれて言いたいことを語るときに用いる。それ故、次の語の後先等に使われる。

 「:」は「ドウピュンクタ」にして、重點と訳す。この点は文章の最初あるいは初めに付けて強調するときに使ったりする。

 「?」は「フラーガテーケン」にして、問點と訳す。何か質問するとき、語尾のお尻に付ける。

 「〃」は「ジヒシヲ」にして、分言點(ぶんげんてん)と訳す。紙の端っこに至りて一語、一言を書き終えることが出来ないときにこの点を記し、次の行に余りの字を書くときに使う。書体によっては「一」と記すときもある。

 「・」は「ピュンクトム」にして、畢點(ひってん)と訳す。まさに終わりの点。文章等で著した筋道の終わりに書き添えるものだ。

 「書籍」の項には、異国の物、書籍は入手したそれぞれの家の秘蔵にして、幸いに目にすることが出来た物は数十部に及ぶと披露した。そのうえで、翻訳を業とするに当たって訳家に買い求めた物少なからずと、今手元にある物を頭に思い浮かべながら医事に掛かる書籍の幾つかを紹介した。

 産科の書、外科の書、内療(科)の書、解剖の書、医事集成の書に本草の書、薬物等の扱い、効能等を現した書、薬局に掛かる書などだ。

 また、翻訳を業とするとあれば医事に掛かる書籍だけではない。天文、測量から諸芸術の書、算要の書、職業技術の書に航海の書、万国の地理、地図、鳥獣魚類、馬に掛かる書、翻訳に役だつ辞書などなど、今に思っても所有する物の枚挙にはいとまが無い。

 「(がく)(くん)」の項では少しばかり自惚(うぬぼ)れたかもしれない。総説の所でも触れたが、既に吾は豪傑、(さむらい)の域に達した。和蘭の辞書を片手に調べれば知らざること(まれ)だと言い切った。 

 また、和蘭語を学ばんとするものは吾の既に集め整理した訳字集の小冊子を引き写せば(蘭学階梯には謄写すればとある)労せずしてその大半を知ることにもなる。和蘭語習得が出来たも同じだと書いた。

 誰しも、未だ知らざるところから学ばんとすれば和蘭語を理解しがたい。されど医者は医書、天文家というならば天文の書、地理、本草、書画等々も己の好むところ己が今にしているところから、関心のある所から和蘭語の習得に掛かれと説いた。その方が理解もし易いと認めた。

 そして最後に、この書は学者に限らず和蘭語を学ばんとする者皆々の階梯(はしご)梯子(はしご))であれと書き留めた。