十一月二十九日。木曜日。 父母は三時に来て四時頃に帰った。入れ替わりに俊ちゃ
んが来た。お父さん達と会わなかったという。駐輪場まで
熊谷君と一緒だったと言った。窓の外は暗かった。
明日の一時退院は十時頃と決まった。俊ちゃんに学校の
帰りに家に寄ってねと言った。俊ちゃんは自分もお父さん
達と一緒に十時に迎えに来ると言う。嬉しい。
授業の方、大丈夫かなと言ったら、受験に関係無いよ、
机の上でも授業と関係の無い本を開いている。受験科目だ
けを自分のペースで勉強している。それが受験対策だと言
う。語る俊ちゃんの目ってキレイ。
照明を落とすように頼んだ。夕食前に、キスして愛撫し
て愛を確かめた。俊ちゃん、愛してる。俊ちゃんは六時半
頃に帰った。明日が待ち遠しい。腰の辺りにまた痛みが出
てきた。
十一月三十日。金曜日。 朝から嬉しかった。父母と俊ちゃんが着く前に着替えを
済ませた。早く家に帰りたい。帰りたい。そんな気持ちだ
けだった。迎えに来た父、母、俊ちゃんは神様だ。
十二日が経っていた。玄関前で家の周りを見た。何故か
懐かしい。家を見上げるなんて小さい頃にあっただけだっ
たと思う。
私の部屋で、母が淹れてくれた熱いコーヒーを四人で飲
んだ。私を守ってくれる家族が居た。有り難う有り難う。
感謝しか無い。父は隣り近所の最近の話題を語り、俊ちゃ
んは学校での事を話す。雑談に花が咲いた。皆の気遣いに
感謝だ。
お昼は、母の手作りハンバーグ。私の要望に応えてくれ
たお母さんに感謝だ。四人で炬燵テーブルを囲むと涙が出
そうになった。嬉しかった。美味しかった。俊ちゃんの食
べるご飯の量に父も母も笑った。私も元気をもらったよう
な気がする。
昼食が済んで、部屋に戻って少し横になった。俊ちゃん
が私の机で勉強する背中を見ていてウトウトした。
梨花ちゃんのメール着信。時刻は二時三十五分。父母と
俊ちゃんと相談して、七時限目の授業が終わり、皆が帰る
時刻に返信した。二日の午前十一時、梨花ちゃん、京子ち
ゃん熊谷君が家に来る。会える。嬉しい。楽しみが待って
いる。
明日は家で勉強する。美希はお父さんお母さんに一杯甘
えると良いという俊ちゃんの言葉に、私は俊ちゃんに一杯
一杯甘えたい。抱擁とキスをした。俊ちゃんは四時過ぎに
帰った。
十二月 一日。土曜日。 朝方、呼吸が苦しくなって目が覚めた。起き上がろうと
して腰の辺りに痛みが走る。母を呼んで薬を飲んだ。呼び
鈴が役立つのを初めて知った。薬は良く効く。
管区の講話が七日の金曜日に千厩の教会で開かれる予定
になっている。けど参加は無理だと自分で分かる。昼前、
父に参加できないと連絡して貰った。今年初めての不参加
になる。仕方が無い。祈る。
午後、昨日四人で話し合った前沢牛の購入のため父が予
定通り前沢の町に出かけた。食べる事の出来なかった前沢
牛を古城巡りのメンバー皆で口にしたい。父は、約往復三
時間の道のりを行って来てくれた。娘の我がままと、散財
をさせてゴメンなさい。
俊ちゃんは、今日は来ない。分かっていても会いたかっ
た。明日も良い天気が続くと良い。
十二月 二日。 日曜日。 昨日の小春日と打って変わって朝から雲が多い。雨を心
配したけど影響はなかった。十一時前に約束通り、梨花ち
ゃん、京子ちゃん、熊谷君が来た。座卓の前に揃うと嬉し
かった。けど、自分が皆の話の中に入れるのか何故か不安
になった。元気な自分を見せなければと思った。
胡蝶蘭の花言葉のように、本当に幸福が飛んできて欲し
い。色紙の励ましに応えられる健康が欲しい。
神様。アーメン。
よさこいソーラン参加も、古城巡りも、文化祭も楽しか
った。皆が意識的にそれを話題にしてくれたけど、皆が語
る将来の夢、目標は私にはもう無い。悲しい。
熊谷君に、妹さんから頼まれた、ちひろの絵を二点持っ
て行ってもらった。水仙のある母子像、ゆびきりをする子
供を貸した。
俊ちゃんが帰るとき、勉強に集中してね。再入院した日
の学校の帰りには寄ってねと約束した。
今、午後九時を少し回った所だ。眠れるだろうか、今日
一日の楽しかったことを思い出しながらも、腰の辺りと背
中に痛みが出ている。
十二月 三日。 月曜日。 背中が痛くて目が覚めた。朝食前に母に言って薬を飲ん
だ。母の目は優しかった。母に涙が無い。それだけでも良
かった。
日中は時折雨が降った。陽射しがない。横になったまま
窓の外を見ながら風の音、雨の音に一日耳を澄ました。
私の人生って何だったんだろう。初めてそう思った。
俊ちゃんに会いたい。
十二月 四日。 火曜日。 十時頃にベッドを離れて居間の炬燵に足を入れた。父の
用意してくれた座椅子を少し倒して横になる。薬の効果な
のだろう痛みがないだけ良い。三人で昼食に父と母の手作
りの寿司を食べた。久しぶりのマグロ、しめ鯖、イカ、タ
コ、ウニ、イクラ、お稲荷、鉄火巻き、カッパ巻きを少し
ずつ口にしたけど全部美味しかった。食材は俊ちゃん家の
お店から都合したはずだ。
午後からベッドに横になった。俊ちゃんは来ない。でも
学校の帰りに寄ってくれることを期待する自分が居た。