十一月二十一日。水曜日。 前日と同じように父母が午後二時頃に来て、四時近くに

            帰る。何時もの通り抗がん剤の点滴を受けた。耐えるしか

            無い。

             学校の帰り、俊ちゃんが寄ってくれた。何時でも会いた

            いと思う。毎日会いたいと思う。有り難う。

            感謝。感謝。キスをした。

 

十一月二十二日。木曜日。 午後、父が頼んでいた日記帳を持ってきた。本屋さんが

            驚いていたと言う。在庫品があるかどうか探してくれたと

            言った。

             二〇〇八年の日記帳も購入して二〇〇七年の方はただに

            してくれたと父が小さく笑った。

            母が二〇〇八年の日記帳は私の部屋の机の上に置いてきた

            という。

             父に用事があるとかで、三時頃に父も母も帰った。

            たった一冊の日記。残っていた日記。きっと私に縁がある

            のだろう。

             俊ちゃんが言っていたように、自分を見つめることが出

            来るかも知れない。再入院した日からを書いてみてそう思

            う。来てくれた人の所作、表情が今までよりも鮮明に記憶

            に思い出される。不思議だ。

             闘病記にしかならいかも知れないけど、自分で自分を見

            つめることが出来る。生きた記録なのだと思う。日記を付

            け始めたこと俊ちゃんには内緒だ。

             寄ってくれた俊ちゃんに、明日から三連休。しっかり勉

            強してねと言った。でも、明日、勉強の合間に病院に来る

            よと言う。私は嬉しいけど、俊ちゃんの受験の事を考える

            と複雑。

             でも会いたい。愛してる。

          

十一月二十三日。金曜日。 祝日だ。三連休になる。父母が十一時に来た。父が朝は

            冷え込んだけど良い天気だと言う。私も窓から青空を見た

            ばかりだった。

             昼食の後、母が持ってきたリンゴをむいてくれた。美味

            しい。地元産は矢っ張り美味しい。密がタップリ入ってい

            たフジ。何時もはただ口にしていただけなのに、何故かリ

            ンゴの味を歯、舌でかみしめた。何もかもが最後になるよ

            うな気がして涙が出そうになった。

            母に涙は見せられない。こらえた。

             一時をすぎて父母は帰った。

             四時ちょっと過ぎに俊ちゃんが来た。ダウンにマフラー

            は何時ものことだけど、毛糸の青い帽子は初めて見た。可

            愛い。小父さん達は来たのかと気遣ってくれた。立って彼

            の胸に飛び込んだ。抱擁とキスを一杯した。愛してる。愛

            してる。ベッドに座って胸に抱かれているだけで安心感が

            湧く。

             俊ちゃんの胸って大きな胸だと始めて思った。嬉しい、

            有り難う。私が夕食を食べるのを見てから帰ると言ったけ

            ど、夕食に間に合うように帰って、この後も勉強してと言

            った。明日、明後日は勉強に集中してと言った。

             いつも側に居て欲しいけど、好きだから、愛しているか

            ら俊ちゃんの立場を考える事が出来るんだな

            って、自分で初めてそう思った。

             生理が無い。そろそろあっても良いはずなのに。

 

十一月二十四日。土曜日。 今日も朝から良い天気。昨日と同じ、父母が十一時に来

            た。ビニールハウスの中のホウレン草がおがり過ぎると心

            配を言う。この時期、畑仕事も無いしなと言う。父の何で

            も無い言葉に、普段の生活がそうあったなって思う。

            母は、着替えを持ってきたと言い、汚れ物はと言う。母の

            言葉と仕草をこんなに客観的に見る事って有ったかしらと

            思う。お母さん、何時も有り難う。

            俊ちゃんが来無いと分かっていても期待する自分がいる。

            愛してる。

 

十一月二十五日。日曜日。 三日続きの晴天。窓から見る青空が気持ちいい。目の前

            に見える館山の杉木立が余計に黒く見えた。

             中腹の畑も黒ずんでいた。町並みの屋根々々に下りた霜

            が溶けて所々に溜まった露が陽の光に輝いていた。

             父母は、十一時に来て、午後一時を過ぎたところで帰っ

            た。個室って、良いのか悪いのか、父母が帰ると話す相手

            が居ない、人影も無い。孤独を痛感する。

             俊ちゃんに会いたい。勉強、勉強、勉強。受験、受験、

            受験。何度か書いて、俊ちゃんを思う。愛してる。

          

十一月二十六日。月曜日。 小春日を思わせる日だった。南風が時折窓を揺らした。

            この時期には珍しいと思う。俊ちゃんが学校の帰りに寄っ

            てくれると思うと朝から心がウキウキした。

             父母が顔を見せたのは、午後の三時。出荷作業等を終え

            て来たのだと思う。良い天気だぞと父が言う。外は暖かい

            と言う。母に着替えの下着類の洗濯を頼む。汚れ物はと聞

            かれて、無いと応えた。

             俊ちゃんが来たのは午後四時を回ったばかりだった。

            嬉しくて、早いねと言った。野球部の部活も新聞部の部活

            も無いからねと言う。中二日会っていなかっただけなのに

            ズーッと、ズーッと、久しぶりのような気がする。

             父が俊ちゃんに、何時も有り難うと言う。

            父母が先に帰った後、ベッドに座った俊ちゃんの胸に抱か

            れる。ここち良い安らぎを感じる。一杯キスをせがんだ。

            俊ちゃんの手に胸を委ねた。愛してる。

             日記を付け始めて五日。会えば抱擁とキスをしている事

            が分かる。でも愛しているのだ。

            早く元気になりたいと思う。

 

十一月二十七日。火曜日。 父母が来たのは午後の三時ちょっと過ぎ。昨日と同じ時

            刻だ。平日はこのパターンかなと思う。母がまたリンゴを

            持ってきた。俊ちゃんが顔を見せたのは昨日と同じ頃だっ

            た。母の剥いてくれたリンゴを四人で食べた。

             今日も父母が先に帰り、俊ちゃんは私が夕食を済むまで

            残ってくれた。他人の手が無くてもベッドを離れることは

            出来る。けど、ベッドから下りて元気に歩き回る。外の空

            気を吸う。そんな日が来るのだろうかと、俊ちゃんが帰っ

            た後、急に不安になった。

             時折、腰痛が出る。呼吸が苦しくなることがある。

            父母にも俊ちゃんにも気付かれないように頑張った。

 

十一月二十八日。水曜日。 何時もの通り抗がん剤の点滴を受けた。気持ち悪くなる

            のも倦怠感が出るのもいつもと同じだ。ガマン、ガマン、

            そう思いながら半分はもう良い、限界だ、とも思う。

             父母は点滴の始まる午後二時前に来た。私が点滴を受け

            ている間に佐藤先生から父母に経過報告があった。

            戻ってきた父は、一時退院が出来るぞと言った。本当?と

            聞き返した。

            入院して十日経った。気分転換、先生がOKしたという。

            嬉しかった。もう少し喜んでも良さそうなのに母は作った

            ような笑顔を見せた。

             三十日の金曜日から十二月の五日までと聞いて、余計に

            嬉しかった。一日や二日ではないのだ。

             三日続きで同じ時刻に俊ちゃんが来た。抗がん剤の点滴

            の日に美希の笑顔を見るなんて、何か良いことがあったか

            という。私の気持ちが顔に出ていた。

             俊ちゃんが父と一緒に部屋を出て行ったけど、戻って来

            るといきなり、一時退院が出来るんだって、良かったと言

            う。喜んでくれた。

             私の夕食が済んで父母が帰った後も俊ちゃんは残ってく

            れた。話に、クラスの皆はどうしてるって聞いて、早く元

            気にならないと皆に忘れられてしまうぞって言う。何故か

            涙が出た。涙が止らなかった。

             俊ちゃんが背中をさすってくれた。私は、俊ちゃんの温

            もりと優しい言葉に甘えた。俊ちゃんの胸に顔を埋めると

            離さなかった。ベッドの上で愛した。愛された。電気が付

            いたままだった。恥ずかしい。