(サイカチ物語・第8章・遂志・11)

 

 家に戻ったのが午後四時過ぎだった。居間で母が淹れて呉れたお茶を飲みながら、父母にこれから一週間の予定を伝えた。

「明日からの三日間は、我が儘だけど高校三年の時に行った古城巡りの地を、もう一度巡ってくる。東日本大震災があってから、特にその後の佐沼城と須江山と海岸沿いが気になって仕方がないんだ。二十一日の水曜日、夕方には家に帰ってくる」。

「お父さんも私も構わないけど、梨花さんの方はどうなっているの?」。

「彼女は一日置いて、二十三日の金曜日にこの家に来る事になっている。今日俺が乗って来た一関駅前からのバスで来るから、二十三日は午前十時半頃に町に着く。

 彼女が着いたら、その日の午後、二人一緒に岩城先生の家を訪問し、結婚の報告と、同時に先生の古希を祝うつもりでいる。来るのが式の前日になるけど、彼女の今の仕事からそうならざるを得ない。空き家になっている自宅に一旦帰るより、直接この家に来て泊まりなさいと伝えてある。

 二十四日の結婚式当日は、朝から予約してある美容院で彼女も俺も朝から支度をすることになる。町裏にある美容院での着付けと髪を整える支度は、俺達だけでなく、お母さんと由美の分も予約してある。式は十一時からだけど俺と彼女は朝八時迄には必ず来て下さいと言われている。

 式の進行は高校時代の同級生だった及川俊明君と千葉京子さんにお願いしてある。二人とは四月末の土曜日に大宮駅近くの喫茶店で待ち合わせ、会食しながらだったけど打ち合わせをした。

 及川君とは先週の日曜日にも大宮の同じ喫茶店で最終的な打ち合わせをしている。彼は宇都宮駅から新幹線だと三十分で大宮に来られるし、俺は所沢に住んでいるから武蔵野線と埼京線を継いで一時間程で大宮に出られるんだ。

 式場では俺とか彼女の履歴紹介みたいなことはしない。二人が現在何をしているかと将来の目標等を披露して、新しく家庭を築く二人を支援してくれるよう参列者に伝える場にする。結婚式の趣旨をそう言って、及川君と千葉さんに司会を頼んだ」。

父も母も頷いた。母の言葉だ。

「当日の天気が良いと良いわね」。

 事前の話では、篤は式当日の朝、盛岡から車で来る。翌日が日曜日だから実家に一泊して帰ると聞いている。

「篤はまだ研修医の身できっと忙しいんでしょうね。由美も篤の車に乗せて貰って来て日曜日に一緒に帰るようなこと言っていた。準が梨花さんと結婚すると聞いて、由美は驚いていたわよ」。

 母は俺の式のことを心配しながら、弟妹の近況等も教えてくれた。篤は岩手大学医学部に進み、順調に医者の道を歩み始めた。由美は岩手県を放送の対象地域とした「めんこいテレビ」の駆け出しアナウンサーだ。入社して二年。朝七時台の枠のテレビ画面に出るようになって、父母の平日の朝の楽しみになっている。篤も由美も今は盛岡に住んでいる。

 母の淹れてくれたお茶を手にして部屋に戻った。よく使った机を前に椅子に座ると、これからのことも、過ぎ去ったこの十年間の色々なことも思い浮かぶ。