(サイカチ物語・第7章・旅立ち・12)

 

 小父さんと及川の言葉から及川と一緒に食事をしに行くことになった。小父さんは後で食べると言った。

三階に有る食堂は十人も入れば満杯だ。昼食の時間なのに先客は三人しか居ない。窓際は寒いからだろう席が空いている。俺達はそこに座った。二人とも唐揚げ定食を頼んだ。 

 注文して、及川の顔を見た、学校では気付かなかったけど、目の前の及川はこの二週間の間に頬がこけている。食事をしながら、毎日学校の帰りに寄っているのかと聞いた。勉強の方の進捗状況はどうかと聞いた。

 しかし、間に彼の応えを聞きながら、食事が終わってもその後にコーヒーを飲んだときにも、美希の日記に見た、私の夢、天国で俊ちゃんの赤ちゃんを産むこと、を口にすることは出来なかった。

 

 及川は、美希と話し合って火曜日と木曜日に病室に寄る決まりだ、再入院の日に受験勉強に集中してと逆にハッパを掛けられたと笑いながら言った。

「W大学の政経学部にするか、文学部にするか、進学先の本命をどっちにするか迷っている」。

自分が何をしたいのか、この時になっても迷うなんて情けないとも言った。

 それを聞きなが俺は自分の進学希望先が及川や生徒仲間の皆が思っている事と違うことを打ち明けようかと思った。だけど、出来なかった。三度の家族会議までして家族には既に認められていることなのに、及川を裏切るようで、話すことが出来なかった。

 

 俺が町民病院から家に戻ってきた時は午後一時半を回っていた。土曜診療で患者さんを診る時間が少し前までかかったのだろう、父が母の用意した遅い昼食を摂っていた。

「昼食はどうしたの?」

「うん、及川と一緒に病院の食堂で唐揚げ定食を食べた。由美が借りた絵も美希さんに返してきた」。

「良い絵だったね」。

 俺が知らない間に父も見たらしい。

「美希さんの具合はどうだった?」。

「うん、変わりないよ」。

 先程までの美希を思い浮かべながら応えたけど、病室で見た日記の事は父にも母にも言えなかった。美希と及川の二人だけの秘密だろう。若しかして美希一人だけの秘密なのかも。まさか・・・。

「五日間ばかり退院して、再入院したんだろう?」。

 父が確認するような聞き方をした。そして、言った。

「準達も心の準備が必要だね」。

「えっ、どういうこと」。

 驚いて聞き返した。まさか死期が近いということ?と心の中で思ったけど、口に出来ない。初めて美希の事で死を想像した。美希の日記を思い描いた。