(サイカチ物語・第7章・・旅立ち・8)
京子と及川のやり取りを皆が頷きながら聞いた。俺が口にした
「閲覧してくれた人の数、統計を取っていなかったのは残念だったなー」。
「写真の方も皆さん良く見てくれてたよ。大原城とか唐梅館、佐沼城のことを聞く人が多かった。ここは私の生まれた町。嫁に来る前の町。こんな近くにこんな城があったなんて知らなかった。よく遊んだ場所なのにこんな歴史があった所だって知らなかった、と言ってた。最初から伊達の殿様の領地だと思っていたと言う方が何人かいて、写真をみながら驚いていたよ。男子生徒も女子生徒も、誰と誰が古城巡りに行ってきたんだって聞いてきたよ」。
美希が文化祭で体験した事を少し長く話した。それを聞いて心配と裏腹に何故か安心した。
「食事やよさこいソーランの演舞をしに行くのに通り抜けにくいほど廊下は一杯だったものね」。
「寄席も人を呼んでいたわね。将来の目標、夢って、一番実現しそうなのはゲンちゃんじゃない?。今からサイン貰っておかないと。それがレアな記念物になって、いつかお宝探偵団に出してガッポリ儲けようかしら」。
梨花に続いた京子の言葉にまた皆が笑った。梨花も京子も美希の病気の事に触れない。美希を励まそうとしている。
正午近かった。小母さんが板戸を開けて顔を出し、美希さんと呼ぶ。座椅子に寄りかかっていた美希が声に反応して振り返り、立ち上がろうとして、ちょっと顔を歪ませたようにも見えた。及川を見ると、心配そうな顔をしている。
隣の台所兼居間らしい部屋に一度消えた美希が、すぐに板戸から顔を出した。
「京子ちゃん、梨花ちゃん。ちょっと手伝ってくれる」。
二人が出て行ったと思うと、間もなく板戸が大きく開かれた。梨花が角盆にランチョンマットとナイフ、フォークを乗せて持ってきた。京子は調味料のソースとマヨネーズ、大根おろしの乗った角盆を手にしていた。昼食の準備だった。
梨花が和食の時の箸を置くのと同じように手前にナイフとフォークを並べて置いた。
「いや右側にナイフ、左側にフォーク。間に料理が置かれる」。
「そうなんだ」。
俺のアドバイスに、梨花が舌を出しながら配置を換えた。
「知らないもんね」。
京子が言いながら手伝った。
ご飯を盛った皿と汁椀も京子と梨花が運んできて配った。二人が次に現れた時にはそれぞれが両手に大皿を抱えていた。後に続いた美希が大皿を一つ抱えていた。大皿一つにはレタス、ステーキが乗り、人参の甘煮、煮たインゲン、ポテトフライ、飴色に炒めた玉葱、焼き茄子が周りに添えられていた。
五人が座卓を囲んで着席したのを確認して美希が言った。
「前沢牛です」。
ステーキはまだ湯気が立ち、牛肉の香ばしい匂いを漂わせている。知らずに運んでいた京子、梨花はビックリ。俺もビックリだ。及川は驚くことも無く、首を縦に振っている所を見ると事前に知っていたみたいだ。
美希が説明した。昨日の土曜日、父が前沢に行ってきた。前沢には前にも何度か行ってるしそう遠くないから皆に喜んで貰える物の方が良いって専門店で購入してきてもらったと言う。
「旅行では食べられなかったでしょ。これもキャンプ、古城巡りの延長で思い出の一つに加えて貰おうと思ったの」。
京子も梨花も俺も言葉が無い。思い出にという言葉が俺は引っかかった。ちょっとの間の沈黙を破ったのが京子だ。
「よーし、食べるぞ。美味しそう」。
「温かいうちに食べて」。
「お言葉に甘えていただきまーす」。
そう言って京子が笑顔を作った。
「美味しそう。美希ちゃん有り難う。小父さん小母さんに後でお礼言わなくちゃね。いただきます」。
梨花に続いて俺もいただきますと言って美希と及川に目を合せた。この日に前沢牛を食べられるとは思いもしていない。及川が言った。
「美味しい。前沢牛はやっぱり美味しいね。肉が柔らかい」。
「口の中で溶けちゃうよ」。
京子の表現だ。
本当にタップリと牛肉の味がした。皆初めて食べる前沢牛だと思う。少し頬が細くなった美希も、肉片を口に運びながら皆の顔を見てニコニコしている。それが印象的だ。