(サイカチ物語・第7章・旅立ち・4)
三
十一月三十日金曜日。美希の一時退院の日だ。昨日の放課後に及川から聞かされた。彼自身、今日は学校を休んだ。
美希は十二月五日の午前中に再入院するのだという。退院の理由が気分転換であり、症状が改善したというものでは無いと及川が言っていた。彼はこの約二週間、殆ど毎日学校の帰りに町民病院に美希を見舞っていた。
美希の七月の入院の時と同じように、本人、ご家族からお見舞い自粛の要請があったと岩城先生から告げられて、俺や京子、梨花は何時も病院の傍を通るのに美希を見舞うことは無かった。生徒仲間も皆そうだ。及川だけは美希のご両親に身内のように扱われている。俺は勿論、京子も梨花も及川に美希の様子を聞くしかない。
今朝も冬の寒さで、この町周辺は氷点下四度を記録した。だけど、日中は青空が広がりつかの間の小春日和だ。最高気温十一度の予想が出ていたけど珍しく南風が吹き、体感温度がそう思わせた。午前中のうちに退院したのだろう。俺は天気が良くて良かったと授業の合間に思ったりした。
六時限目の授業が終わって、僅か五分の休憩時間の間に京子と梨花が俺の席に来た。
「明日、明後日のどっちか、美希の所にお見舞いに行かない?」。
本人、ご家族の意向が確認できないとダメなことは二人とも理解している。その上での提案だ。俺はその時になって、美希は今日一時退院で十二月五日に再入院する、その間、自宅療養だと初めて口にした。
「えっ何よ、それ、何故黙ってたの。何時知ったの?」。
「昨日の帰りの坂道で及川から聞いた。美希は今頃自宅だろう」。
二人は顔を見合わせていたけど、それで今日及川君休んだのねと言った。美希に連絡してみようとなった。梨花だ。
「私が、代表で美希にメールしてみる。それで良い?。三人で美希ん家に行くけど、どう?、日時の指定は美希に任せる。それで打つね」。
「いや、及川を入れないと。四人」。
俺の言葉に梨花はすぐに反応した。
「古城巡りメンバーで行く。それで良いわね?」。
「及川君は当然に入っているわよ」。
京子が言う。俺達三人の落ち着きのない会話だった。
七時限目が終わり、放課後になって十分経ってもメールの返事がなかったらしい。二人が野球部の部活に出ようとしていた俺を呼び止めた。
集まって、やっぱり無理よねと言う京子に、何か返信があったら二人に連絡すると応えたばかりの梨花の携帯が鳴った。
京子と頭を寄せ合って一緒に見ていた画面を梨花が見せてくれた。明後日、二日の日曜日の午前十一時、楽しみに待っています。昼食を一緒にしたいので食事をしないで来てね。そして、ピースサインが付けられていた。
「良かった、会えるね」。
梨花が笑顔だ。俺達三人は急遽、お見舞いに行くのに何を持って行こうかと相談になった。渡せずにいた生徒仲間皆の寄せ書きの色紙を持って行くことについてはすぐに決まりだ。
「お見舞いに行くのに食事に招待されたみたいで美希ちゃんに悪いね」。
「美希ちゃん家に行くのは日曜日でしょ。明日、間に一日有るよ。千厩か一関に行って見ない?花屋もあるし、デザートも選べる」。
梨花の提案だ。花屋さんの数から、三人で一関に行くことになった。この町に花屋はない。千厩にも確か一軒だ。お見舞いのお菓子にしても果物を選ぶにも一関の方が良いとなった。手頃なバスの便がないのだ。バイクで行くことにしようと決めた。