(サイカチ物語・第6章・文化祭・22)

 

 飾り物を片付け、展示物をはぎ取り、資料類を取りあえず段ボール箱二つに収納した。茶席教室の後片付けを先に終えた京子、梨花の手伝いが途中から加わり、机と椅子を教室と図書室に戻して、廊下の掃き掃除を終えるのに大して時間がかからなかった。片付けが終わると、自分では感じていなかった緊張が何処か急速に解けたみたいだ。

 サイカチ物語、葛西一族の滅亡を前にした来場者の多かったことに満足感も充足感もある。だけど、宴の後の侘しさというのだろうか、高校生活も終わりだ、この高校が廃校になるとも思うからだろうか、虚脱感と全てが終わったという寂寥感(せきりょうかん)が襲ってくる。

 

 まだ四時半だというのに窓の外は暗い。静けさを取り戻した廊下を照らす天井の照明がいやに明るく感じる。数時間前の賑わいが幻のようにも思える。人の居なくなった廊下に寒気が殊更に広がってきた。

 一階に下りると、農業科の生徒がまだ数人、展示即売会場だった教室の後片付け、整理をしている。また食堂代わりだった農業科の教室の机を並べ直し、拭き掃除をしているのがガラス窓越しに見える。月曜日からはまた普通に教室に戻るのだ。整理整頓にもう少し時間がかかりそうだ。

 後ろに見える事務室も職員室もまだ明かりが点いている。先生達にとってはまだ勤務時間内だもんなって思った。俺達五人は、揃って職員室を覗いた。

 文化祭実行委員会の委員でもある梨花が、机を前に座って居た教頭先生に報告した。

「二階は全て終了しました。誰も居ませんし、掃除も終わり、各教室の照明も、廊下の照明も消灯を確認してきました」。

「お疲れさま」。

教頭はそう言って微笑を返した。それから岩城先生の机の前に回った。ここでも五人揃って頭を下げた。今度は俺が代表して挨拶する。

「先生、ご指導有難うございました。お陰様で、サイカチ物語を多くの方に読んでいただくことができました、満足しております」。

先生は頷き、笑顔を見せながら言った。

「良かったよ」。

一言だったけど、すぐに先生の隣の席の高橋先生だ。

「凄く評判良かったですね。ご父兄の方も生徒も興味を相当引かれたみたいですね。一時半頃から二階に上がって観させていただいたけど、その時刻、まだ人だかりが幾つも出来ていましたね。読んで分り易かったし、何よりもこの町周辺の歴史、余り知られていない歴史を掘り起こして伝えたって事、素晴らしいですよ。感心しました」。

五人揃って高橋先生に、有り難うございますと声にして頭を下げた。

 

 廊下に出ると、俺はまた新たな満足感がわいた。この町の隠された歴史を伝える、平泉藤原時代から伊達政宗の時代までの間に葛西時代があった事を伝える。その目論見を他人の言葉で認められたのは初めてだ。展示物に人だかりが出来たこと、初めて知ったと感想を述べていく人が多くいたことで展示は成功したと思っていたけど、俺達に直接向けた言葉でこの町の余り知られていない歴史を伝えたと認め、褒めてくれたのは高橋先生が初めてだ。展示は成功したんだ。満足感も充実感もこみあげてくる。

 

 昨日と同じように駐輪場まで一緒だ。空には月も星も見え無い。寒気が強い。肩をすぼめて坂道を下る。こういうときは体が硬直しているから足下の石が一番怖い。高揚感を感じながらも舗装されていないでこぼこ坂の謂れを思いながら下った。

 月曜日は今日に変わって休日に振り替えだ。六日、火曜日に又元気に会うことを約束して、さようならの言葉を交わした。昨日と同じに、PCXの出すエンジン音が遠ざかって行くのを俺と京子と梨花が見送った。