(サイカチ物語・第6章・文化祭・19)

                 四

 母が焼いて呉れたパンを頬ばりながらテレビ画面を見た。気象予報士が、今朝も冷え込みが厳しく気温が三度を下回ったと言い、この町周辺の最高気温が十四度と伝えていた。どんよりとした曇り空が一日続くという。昨日よりは風が無いだけ良いかも知れない。

 先に食事を済ました父が、食卓の上に朝刊を畳みながら言った。

「二時頃になるかな、見に行けるのは」。

 土曜日は午前診療で終わりだと言っても、何時も患者さんが居なくなるのは午後一時を過ぎることが多い。

「ママの茶席は出られないけど、準の展示物は見に行くよ」。

「お願いします。お父さんの本棚にあった藤沢町史、あの上巻を借りてるよ。展示したサイカチ物語、あの中に出てくる葛西晴信と葛西氏歴代を書いた辺りの机にその町史を置いているんだ。来場者で興味ある方が、葛西氏時代の藤沢の町の城主、館主の系図を参考に見られるよう深田星氏系図と藤沢岩淵氏系図のあるページを開いて置いてる」

「うん、どんな発表物になっているか、楽しみにしているよ」。

 

 由美が洗顔を終えて食卓に着いた。キッチンに立っていた母が新しく焼いたパンを持ってきた。食卓にはパンに挟み込む食材としてレタスとパクチー、茹で卵の輪切りと、生ハム、イチゴジャム、バターが置かれてある。サニーレタスにキャベツと玉葱、刻んだ人参のサラダは小鉢に個別だ。マヨネーズとポン酢が側にある。

「飲み物は何にするの?」。

聞く母に、牛乳、自分で持ってくる。由美は冷蔵庫に向かった。

 父と母は一緒に食事を摂るけど、俺達兄妹は(とし)とともに最近はマイペースだ。弟の篤はまだ起きて来ない。受験勉強がどれほど進んでいるのか知らないけど夜遅くまで勉強しているのは確かだ。町に高校が無くなるので一関一高を受験すると決めている。母が土日は朝食だけでも四回準備するとボヤいたことがあるけど、父は俺達子供に注文を付けない。

 由美が生意気な口ぶりで言った。

(あつし)兄ちゃんがお兄ちゃんの文化祭、彼女と見に行くって言ってたよ。私もついて行くけどね」。

「篤に彼女居るの?、誰、何処の人?」。

由美は夜になって時々電話で長話をする篤の相手のことを言っているのだろう。

「大籠(地区)の及川明子さん」。

ズバリと父と母と俺の前で人の名を出した。

「何で知ってるの?」。

そう聞きながら俺は及川の妹さんだと分った。

 

 午後、文化祭は(あと)一時間半で終わりだ。父の姿がまだ見えない。今日は京子の両親の来場が早かった。十時前に二階に上がって来て俺を見つけると、小父さんの方から声を掛けてきた。挨拶すると、十時からの茶席に出て十一時からよさこいソーランの演舞を観て、それから俺達の展示物を見るという。京子が活躍している場を優先した行動予定だ。食事を挟んで、寄席を見て帰ると言った。

 篤と由美と及川の妹の明子さんも午前十時を回ったばかりに早々と顔を出した。俺達の展示物を見て、十時四十分から始まるゲンちゃんの寄席を聞く。その後、講堂でよさこいソーランの演舞を見て、豚汁とおにぎりだと言った。