(サイカチ物語・第6章・文化祭・18)

 

 今日の寄席も生け花教室も終った。俺達の展示物と美術作品を観る人、抹茶をいただきに来る人が居ても三時を過ぎるとさすがに二階廊下全体に来場者が減った。

 夕闇がガラス窓の外に迫っていた。天候が悪いこともあって何時もより廊下の暗くなるのが早いような気がする。冬が近いことを思わせる外気の寒さが忍んで来る。学生服のボタンを一個外してシャツの臍の辺りに貼り付けたホカロンに手を遣った。まだ暖かい。

 葛西一族の滅亡の辺りを読んでいる来場者がまだ十人程居た。俺は後ろから頭数を数えながら、今日は何人の人が足を止め読んでくれたんだろうと初めて観覧者の数を思った。統計を取っていなかった。

 京子と梨花が、教室の後片付けも終わったといって俺の前に来た。明日もあるから簡単な掃除程度で時間がかからなかったという。久しぶりに見る和服姿の母が二人の後ろに立っていた。及川も美希も寄ってきた。京子と梨花が口々に言った。

「時々廊下を見たけど、今日一日、人が凄かったでしょ」

「廊下の展示物に人だかりが出来たなんて、この三年間で初めて見た」。

俺達が来場者の動向の話になると、お疲れ様、お先にねと言って、母が俺達の横を通って階段に向かった。京子と梨花だ。

「有難うございました。明日も宜しくお願いしまーす」。

教室の中でも交わしたろう挨拶を、もう一度母の背中に向けた。母は階段の途中で立ち止まり、振り返った。

「お疲れ様。明日ネー」

母もまた手を振り、語尾を長くして下りて行った。

腕時計を見ると間もなく三時半だ。まだ三人の方が葛西一族の滅亡の中頃を見ている。二階の廊下は午後三時前までの来場者が嘘みたいに今は学生服と紺のセーラー服姿の生徒仲間だけだ。生け花教室も美術作品展示室も生徒がそれぞれに教室前の廊下までゴミ拾いと、掃き掃除をしている。まだ観覧してくれている三人の方を急かしているようで申し訳ない気持ちになった。間も無く三人の方が階段に向かった。

京子が言う。

「明日は土曜日だから来場者がもっと増えるよ。きっと、お昼時間とその前後の時間はまた廊下に人だかりが出来るね」。

「それを期待して明日も頑張ろう」。

俺が言った。そして、及川が始めたハイタッチを五人が交互に繰り返した。

 

 腕時計は三時四十五分を回った。後で事務室の職員が点検に来るだろうと、あえて廊下の照明を点けたまま帰る事にした。

 昇降口に回ると、外はもうかなり薄暗い。坂道を五人揃って下るのは久しぶりだ。あの人だかりの廊下を思い出しながら、心の中は満足感と高揚感に包まれている。四人の友に心の中で有り難うと言った。

「明日は、如何する?、何時」

「九時十五分、二階に集合だね」。

京子の質問に応えながら皆の顔を見た。確認し合った。

PCXに一緒に乗る及川と美希を見送る。梨花が遠ざかるPCXに声をからした。

「美希ちゃん、明日もネー」。

「美希ちゃん頑張ったね」。

梨花の言葉に俺も京子も頷いた。方角の違う京子に、また明日と手を振り、途中から梨花にバイバイと言って、それぞれに家路についた。