(サイカチ物語・第6章・文化祭・12)

               二

 一昨日(  おととい)は夕方五時半頃に解散したけど、さすがに昨日は放課後も夜七時半頃までかかった。展示するA三判五十二枚とA四判二十七枚の貼り出しと文面に合せて机に関係資料や写真を揃えるのにかなりの時間と労力を要した。

 風邪だろう、咳き込む美希が心配で後は俺達でやるからと、六時過ぎに及川を急かして美希を送っていくよう頼んだ。京子と梨花は展示作業が終わるまで手伝ってくれた。曇り空で陽の出なかった一日は作業が終わったその時刻には肌寒さを余計に感じさせた。

 展示物の最後に作成年月日、平成十九年十一月一日、作成者、俺の名前を筆頭にして熊谷準、及川俊明、千葉京子、高橋梨花、佐藤美希と五人の名前を書いた。京子と梨花はそれを知って驚いた。

「良いの?、私たちの名前まで書いて、このサイカチ物語は、実際は熊谷君一人でまとめたじゃない」。

「とんでもない、京子も梨花も、及川も美希も居なかったらこの貼り出し物は出来なかったよ。貼り出し出来なかった。古城巡りを実際にしてこの出品を考えたんだから。A三判を延々とつなぎ合わせてくれたじゃないか。また写真の方の整理、吹き出しは京子と梨花が作ってくれたじゃないか。俺達五人の出品作品さ」。

京子も梨花もありがとうと言う。俺の方がありがとうだ。及川と美希がこの場に居ないのが残念だ。

 

 貼り出し作業の終わりを見計らっていたのだろう、状況を見に来た岩城先生は最初から最後まで葛西一族の滅亡の文面を読んでくれた。俺はその間ドキドキしっぱなしだった。この時点でおかしい所を指摘されたら大変だと思った。関係資料や古城巡りの写真を見て一人頷いていた。そして、良く出来ているよと俺達三人を賞めてくれた。ヤッターという気持ちだった。

 高校生活最後の文化祭なのに、いや、この岩手県立藤沢高等学校最後の文化祭なのに、生憎、今日も明日も天気が悪いという予報だ。今朝の冷え込みは厳しかった。テレビの天気予報がこの町周辺の最低気温を二・六度と伝えていた。最高気温は十二度と予想されている。今も校舎の窓を北風が揺らし雨が降り出しそうな空だ。来場者の数が気にかかる。

 

 ポスターに書いてある通り、展示は二日(金)、三日(土)とも午前十時から午後三時三十分迄だ。

 安くて採り立ての野菜を目当てに十時前に即売会場に並ぶ例年の常連の方もいるけど、来場者が多い時間帯はやっぱり昼食時間だ。お目当ての豚汁と新米のおにぎりを食べて展示物等を見て廻るか、先に展示物等を見ておにぎり、豚汁を食べて帰るかだ。

 

俺達生徒は来場者の例年のその行動パターンから豚汁を先に食べる方を午後派、後に食べる方を午前派と呼ぶ。今年の場合、午後派は正午前後から一階で豚汁等を食べ、その後に美術作品等の展示物を見て、生け花教室に参加したり、抹茶の席で時間を調整する。午後一時四十分からの寄席に顔を出して、新たに加わった二時からのよさこいソーランの演舞を講堂で見る。荷物になる野菜を最後に買って帰るというパターンを予想した。午前派も午後派も最後に即売会場を覗いて欲しいものを買って帰るのは同じだ。

 

 人気のある豚汁の作り方は佐々木愛のお母さんの事前指導だ。信男を始め農業科の生徒達が調理し、俄店員になる。蒟蒻、本だしは市販の物だけど、大根、ジャガイモ、人参、牛蒡、里芋、ネギ、味噌、それに豚肉も農業科の農産物、作品だ。このために農業科の養豚一頭が犠牲になる。気の毒だけど俺達や町の人の胃を満たしてくれたことで成仏して欲しい。