(サイカチ物語・第5章・俺の嫁さん・19)

                  八

 今日で十月も終わりだ。美希は午後を早退して何時もの通り抗がん剤の点滴を受けに町民病院に行った。もう、小父さんの自家用車(くるま)で家に帰っているだろう。

 俺は熊谷の文化祭の準備を手伝っていつもより帰りが遅い。

夕食時に当たるので寄って良いものかどうかって迷ったけど、結局、小父さんのカローラの手前にPCXを停めてチャイムを押した。腕時計はもうすぐ午後六時になる。周りは暗い。

 

 小父さんが出た。来た目的も何も言わないのに、良く来た、上がれ、夕食を食べていけと言う。

中に入ると小母さんがキッチンに立っている後ろ姿が見えた。美希の姿が無い。

 私の目の動きを見て思ったのか、テーブルを前に座ったばかりなのに、美希は部屋だよと小父さんが言った。さして気にも留めていないそぶりだ。許しを得て、彼女の部屋に向かった。

 ノックして開けると、美希は枕と布団を背中側に丸めて入れているのだろう、寄りかかり上半身を起してベッドの上にいた。藤色の上下ジャージー姿だ。足下に毛布を掛けている。驚いた顔を見せたけど、手にしていた雑誌を横に置いてベッドの上のまま両手を前に出した。

 鍵を閉めて近づくと、ベッドの上の美希の唇を吸った。胸元を開けて乳房を愛撫した。止められない。

俺は学生服を脱いで裸になり、脱がせ、足下の毛布を引き上げた。されるがまま俺にしがみついてきた。

美希を求めた。愛した。枕元に白いタオルは今日は無かった。

 左胸に頭を乗せた額にキスをした。欲望の嵐が去って、言った。

「小父さんが夕食は七時。美希にちゃんと食べるように言ってくれと言っていた、食べなきゃダメだよ。このままでズーッと居た

 いけどそうもいかない。少し痩せたろう。心配なんだ、俺も小父さんも。食事に行こう」。

 小父さんが口にした夕食七時が俺に呉れた美希との時間のような気がする。身支度を調えてもう一度キスと抱擁をした。

机の上に前に来たときの明子の手紙が置かれてある。

「明子は何て書いてた?」。

「見たい?」。

「見てダメなものなのか?」。

「そんなこと無い。見たい?」。

「うん」。

「明子ちゃんに内緒よ」。

 声に出さずに頷いた。見覚えのある千代紙の裏に明子の少し丸味がかった文字だ。

「お姉ちゃん。この間はありがとう。いつまでもお姉ちゃんでいて欲しいから、将来、お兄ちゃんのお嫁さんになって下さい。明子。」

彼奴(あいつ)、こんなこと書いてたんだ」。

「あら、こんなことなの」。

「いや、そういう意味じゃなくて・・・、俺が美希を欲しかったときに彼奴(あいつ)邪魔だったから」。

「もう」。

 美希が俺の胸をどんと叩いた。側に居て欲しくないと思ったその日に、明子はお兄ちゃんのお嫁さんになってくれと美希に頼んでいた。明子の奴。そう思いながら俺は妹を可愛く思う。

 ここ数日の間で、俺は明子とずっと歳の離れた大人になった気がする。