(サイカチ物語・第5章・俺の嫁さん・11)
九月二十八日金曜日。今日で美希は放射線治療の照射が終わりだ。この一ヶ月の間にあった祝日二日の照射を受けていない分の治療分が加わって今日が最後となった。
病院の玄関口から駐輪場に向かって歩きながら言った。
「頑張ったね。お疲れさん」。
もう見慣れたバンダナ姿の美希だ。だけど、今日の花柄のバンダナの美希が可愛い。
一先ず治療が終わって安心したのか、俺の言葉に笑顔を見せた。バンダナキャップを被ったままヘルメットを被りカブに跨がる美希は、白のブラウスと紺の制服、スカート姿で、通学で見る他の女生徒と特に変わりは無い。
何時も通り俺のホンダPCXを先に出して、行くぞって声を掛けた。
美希は一時、病院のソーシャルワーカーが奨めてくれた町の美容院のショートウイッグを利用した。だけど、結局、なじまないと言って止めた。花柄、格子縞、勾玉模様のオーガニックコットンのバンダナをその日によって色違いを被っていた。その方がウイッグのズレや髪と顔の形を気にしなくて済むと言った。クラスの友達も最初のうちは美希のショートウイッグの色や分け目を話題にしたり、バンダナの柄や色に関心を示していたけど、三週間近くたった今はそれを話題にすることもなくなっている。
走る道端の田んぼの稲は大分黄ばみ頭を垂れているけど、まだ寒くは無い。風を切るエンジン音が心地良い。美希ん家の坂下が近づき、何時もの所でバイクを停めた。ヘルメットを被ったままキスと抱擁をして抱きしめ。初めて美希は少し痩せたなと感じた。
口に出して聞くと、どうしても抗がん剤の点滴投与を受けた後ってなんとも言えない倦怠感があるし、気持ちが悪くなる。その日の夜は食事を摂る気になれないと言った。そして、来年の二月まで続くのよねと言って涙ぐんだ。
美希は一昨日、水曜日、六週目の抗がん剤の点滴投与を受けている。俺はそのことを思いながら美希の肩をまた抱きしめて言った。
「美希が元気になるための、直すための方法だ。我慢しよう」。
無言の美希だ。元気づけるつもりで言葉をつないだ。
「明日、美希ん家に遊びに来ようか」。
「う、うん。勉強に集中して。受験までもう四、五ヶ月しかないよ。美希は大丈夫。我慢する、頑張る。今度は美希が俊ちゃんを
応援する」。
そう言いながら、もし来てくれるならと言った。言葉の終わりを珍しくおどけた言い方にした。
「明日明後日(土、日曜日)よりも次の週、三連休でしょ。その一日ぐらいだったら、まあ俊ちゃんの息抜きに付き合ってやって
もしょうが無いか」。
ちょっぴり笑顔になった美希に、もう一度キスをした。