(サイカチ物語・第5章・俺の嫁さん・5)

 

 食事が終わると、明子が、今度は私の部屋に行こうと美希を誘い連れて行った。俺は父と母に食事前の美希の話の内容を聞かせた。

「そんなに重病なの?」。

「出来るだけ力になってやろう」。

 母が驚き、父が首を縦に振った。

 

 雨が小降りになったタイミングで俺が美希の家に送って行くことにしたけど、明子が何時解放するのか分からない。

部屋に戻って英語のリーダーを開いたけど、隣の部屋が気になって集中出来ない。

 二時半を過ぎたところで明子の部屋のドアが開き、また来るねという美希の声がした。半分は俺に言っているようにも聞こえた。階段を下りようとしている美希と明子に、帰るのかと声を掛け、一緒に下りて玄関口に回った。

 

 音を聞いた母も居間から顔を出した。

「ごちそうになりました、有り難うございます」。

 美希が挨拶する。雨はまだ降っている。

「大部小降りになったから今のうちね。気を付けて帰ってね」。

 母の言葉だ。先に自分の傘を持って表に出ていた俺は出てきた美希に送っていくよと言い、明子は美希に傘を手渡しながら、私も一緒に送って行くねと言った。

 

 道は濡れてはいても舗装されているから歩きにくいことは無い。跳ねる雨水も小降りになって少なかった。

「小さい頃、この道で結構遊んだね。お姉ちゃん家に良く通ったよ」。

「魚取りも泳ぎも、みなこの道、この川だよ」。

 しかし、今、道路から三メートル程低いだけの小川は水嵩を増して川幅を広げ、普段聞くことも無いゴーゴーという音を出している。道路の冠水まであと五十センチ程のところを流れ、流木混じりの泥水は恐ろしくもあり、降り注いだ雨の凄さを示している。

 

「家に寄っていかない?」。

 美希ん家の坂下での誘いだ。

「この後、雨がどうなるか分からないから今日は帰るよ」。

 別れた。手を振りながら坂を上って行く美希を見送って帰り道についた。

 

「美希姉ちゃんどうなるの」。

 途中の、明子の言葉だ。

「どうなるもこうなるも、治療がこれから始まるだけだよ」。

 俺は自分の言葉に力が入った。明子が何を考えたのか分からないけど下を向いている。そして、顔を上げた。

「そうだよね」。

 言って前を向いた。雨脚がまた強くなり出した。

「少し急いで帰ろう」。

 明子を急かした。車が一台、反対方向に猛スピードで通り過ぎて行った。