(サイカチ物語・第五章・俺の嫁さん・2)

 

 受け取った明子は満面の笑みだ。

「開けて良い?」。

 聞きながら、手先は包装紙を開き始めている。箱の中から牛のマスコットが現れた。

「可愛い。部屋に飾るね。何処で買ったの?」。

「牛の博物館」。

「それって何処にあるの?」。

「前沢」。

「えっ、前沢って、あの前沢牛?」。

「そう。お肉の方は高くて、高校生の私達は食べられなかったけどね」。

 小さな笑いが生じた。父も母も笑みを見せた。

 明子は俺から牛のストラップの土産を貰っているのだ。土産が何処で買った物か想像がついたろうに、とぼけていた。もう一つの方は俳優、滝沢秀明のプロマイド写真だった。

「嬉しいー」。

 明子はそれを両手に抱えて胸に持っていった。

「二年前のNHKの大河ドラマ、義経だよ、主役の俳優」。

 俺が父母に説明した。父も母も、ああって首を縦に振った。

 

 その後、キャンプの話になった。殆ど明子が質問し、美希が俺の父や母にも分かるように話して、俺が適当に補足した。

そして美希は言った。

「高校生活最後でしょ、何か思い出が欲しかったの。思い出ってありそうで無いより自分達で作ろう。そう思って俊明さんから聞

 いた熊谷準君のキャンプの誘い、千葉京子さんが希望していたツーリング、三人共通の古城巡りをしたいって話。それをやろ

 う、行こうって私が俊明君に言いました。

  よさこいソーランのリーダーをしている高橋梨花さんも参加してくれてこの夏ほど楽しくて充実した年って今までに無かった

 です。思い出作りの二〇〇七年、夏。思い出が今年一杯で廃校になる学校の生徒だったと言うだけでは淋しいものね」。

 俺の父母に言い訳しているようで、言葉の後の方は明子にだけ向けられていた。

 

 話の段落ついたところで美希が不意に俺の父と母に頭を下げた。

「俊明さんの受験勉強を邪魔したようで、済みません」。

 思いも寄らないことだ。

「馬鹿なことを言うなよ。全然迷惑じゃ無いよ。俺も熊谷も京子も梨花も皆受験生さ。

 美希の言うように思い出作りもあるかも知れないけど、皆が何か刺激が欲しかった。

 それが今年はキャンプ、ツーリング、古城巡りだったんだ」。

「全然気にしなくていいのよ。本人が一番楽しんでいるんだから」。

 母がそう言って、笑みを見せた。

 明子がキャンプの話をもっと聞きたいと言う、私の部屋に行こうと美希を誘った。美希はこの家に来るといつも明子の部屋に行っている。

「今日は俺に用事があって来たんだ、俺の部屋さ」。

 それまで聞いているだけだった父が母の顔を見た。俺が美希を自分の部屋に誘うのは初めてのことだ。

 明子が無頓着なまま、私も一緒という。俺は、ああ良いよと言い、父母は何も言わなかった。