(サイカチ物語・第五章・俺の嫁さん・1)

 

            第五章 俺の嫁さん

               一

 朝、食事を終えてコーヒーを飲んでいるところに美希からの電話だ。

「今日これから米川に父と母と一緒に法事に行ってくるけど、明日、俊ちゃんの家に遊びに行って良い?。明子ちゃん、居るかし

 ら」。

 携帯を耳に当てたまま側に居た明子に予定を聞くと、部活も無いらしい。家に居ると言う。

「明子は夏休みの宿題をサボっていて、宿題の追い込みに何処かに出かけるどころではないみたいだ。何時頃に来る?」。

 俺は笑いながら応え、聞いた。

「十時」。

「うん、了解」。

 美希の米川行きは初盆を迎えた親戚の家に寄るのだろう。昨日までの三日間、約六百キロ、バイクに乗っていた体の疲れは大丈夫なのかと美希が気になる。両親と一緒、自家用車(くるま)で行くと言っていたから大丈夫なのだろうけど、気を付けて行って来いよと言った。俺自身は、今日は受験勉強に取り組む事にする。

たった三日間なのに机に向かうと本当に久しぶりに勉強をする感覚だ。受験生としての緊張感が欠けている。自分でそう思う。

 

 夏休みも今日、明日、明後日の残る三日間だけだ。キャベツ、茄子、キュウリ、ピーマンなどJAに出荷する今日の分の野菜の収穫と梱包を久しぶりに手伝った。

 一段落したところで美希が顔を出した。美希も小父さんの野菜の出荷を手伝ってから来たのだろう、十時をちょっと過ぎている。お茶の入った時間で居間に父も母も明子も揃っていた。

 チャイムの音と美希の声がすると、俺より先に明子が玄関口に迎えに出た。玄関に立った美希はピンクの半袖シャツにベージュのレギンスパンツ、赤い長靴を履いている。濃いピンクの傘が濡れている。朝方の曇天に変わって降り出したばかりの雨だ。これから先は今日一日雨の天気予報だ。

 明子が傘立てに美希の傘を差して、手を取り居間に案内した。

 美希はビニールのかかった紙袋とハンドバッグを左手にしていた。俺は美希と目を合せただけで軽く頷き、明子の仕草を見ていた。明子は父が座っている座卓の右隣の席に美希を誘導した。そこは普段は俺が座る場所だ。

 明子は美希の右側に座った。父の左隣が母の何時もの席で、自ずと母の左隣に俺が座る形になった。美希が明子の所に遊びに来たときの小さい頃からの位置取りだ。

 美希が座布団を前にして、お邪魔しますと俺の両親に改めて挨拶する。

「足を崩して楽に座ってね。皆でお茶にしていたけどコーヒーでも入れましょうか」。

 母が言う。美希が、私もお茶でと言ったけど、明子がコーヒーにしようと言い、誰の返事を聞くこともなくさっさと支度をしにキッチンに立った。

「いつもお世話になっているので、宜しく伝えてくれと父に言われました」。

 そして、来るときに父に持たされたという縦長の箱包み差し出した。父はお礼を言いながら今日出荷した佐藤家の野菜の種類を聞き、野菜の出来具合はどうかと言う。

 美希がちょっと戸惑った様子だ。

「言われた物を梱包するけど、善し悪しはそう分からないよな」。

 俺は助け船を出した。キッチンから明子だ。

「ね。キャンプはどうだった。皆でバイクでツーリングするって格好良い」。

「その話は後にしてコーヒーは?」。

「もう出来る」。

 聞いた母が、立ってキッチンに行った。明子が五個のカップをお盆に乗せて先に運んできた。サイホンを取りにまたキッチンに戻った。

 母がこんなものしか無いけど、と言って一個一個が包装された青木屋の藤まんじゅうを一皿に乗せてテーブルの上に置いた。

明子が目の前でサイホンからコーヒーを注ぐ。コーヒーの良い香りが漂った。

父も母も美希の病気のことを知っている。いつもより美希に気を使っているように見える。

 明子が席に着くと、美希は紙袋から包装された二十センチ程の長方形の箱を出した。ハンドバッグからは千代紙に包まれたトランプ大の物を取り出した。

「はい、お土産」。