(サイカチ物語・第四章・古城巡り・42)
十分程休んでロケ資料館に向かう途中、熊谷のご託宣だった。
「今、四時丁度だから二十分ぐらいの見当で見て回ろう」。
館内はやや薄暗く照明を落としてある。入るとすぐにNHKの大河ドラマの放映の歴史のパネルが目に入った。園内で撮影された過去のドラマや映画の作品のポイントとなる場面や出演した俳優を大きなパネル写真にして紹介している。
このテーマパーク設立に大きな影響を与えた大河ドラマ「炎立つ」関連の紹介が最初だった。台本や小道具が展示されていた。
「放映された一九九三、四年って・・、私達四、五歳の頃だよ」。
梨花が作品紹介にあった撮影と放映の時期を見て言う。
「記憶にないものね。でも、主役の渡辺謙や村上弘明って今でも活躍しているね」。
京子が受けて応えた。美希だった。
「村上弘明は陸前高田市広田町の出身よ。昨日蛇ヶ崎城址に行ったでしょ、あの広田湾に面した町の出身」。
「えーっ、本当。美希ちゃん詳しい」。
それに応えず美希は、私達はこっちねと指さして言う。
俳優・滝沢秀明の義経の姿と上半身だけのジャケット姿のパネル写真だ。二〇〇五年、二年前に放映された義経関連のパネルが近くに多く展示されてある。
「格好いい。やっぱりこっちよ」。
梨花が自分で頷きながら同調した。
「この写真持って帰りたい」と京子だ。
「さすがに俳優だな。格好いいもんな」と熊谷。
鍬形の兜に鎧姿の義経のパネルの前で俺だ。
「この義経の格好をして見たいね」。
「及川君体格が良いからきっと似合う」。
美希が言う。
「俳優を目指す?個性派の顔かも」。
梨花が茶化す。
「顔も体もまあまあよ」。
京子までが加わった。熊谷が珍しく話の中に入った。
「俺は?」。
すかさず女性三人が口を揃えた。
「それは無い。無理、無理、止めときー」
「熊谷君はね、白衣が似合うの」
京子がフォローした。
「白い巨塔の医者だね」。
俺が言った。
「白い巨塔って何?」。
梨花が聞く。
「三、四年前の唐沢寿明主演の医者の世界を描いたテレビドラマだよ。原作は作家山崎豊子の同名小説」。
俺が応えた。梨花が、皆、良く知ってるねーと言う。
少し歩いて、美希と梨花が、あっ、これだーと言う。あの秀吉の生家を再現したという中村の庄のすきま風の通る家屋の写真だ。その家屋で若い秀吉と妻のねねが前田利家を相手にしている場面のパネル写真もある。
後にも藤原の郷がロケで使われたというテレビドラマや映画等を紹介するパネルコーナーが続いた。
女性三人は作品毎に出てくる俳優の前で足を止めることが多い。出演者の鋳物の手形やサイン色紙に見入った。
熊谷が後五分と急かした。
出口近くに来て、俺は何かもの足りなかった。館内にロケに使われたという造作物の生け垣に庭、物見櫓、土塁などが再現されていたら、また実際に使われたというNHKの大河ドラマの衣装が幾つか色彩も艶やかに飾られていたら、鎧、兜を付けた俳優の実物大のフィギアがあったら、もっと喜ばれるだろう、その方が良いだろうと頭の中で考えた。
薄暗かったロケ資料館を順路に従って出ると、夏の陽が余計に明るく眩しかった。目の前が入園出入りの改札口だった。
もうすぐ四時半になるのに気温はまだ三十度を超えているのだろう。
駐車場の左側に、離れて土産物等を扱う大きな店舗がある。京子が、十分、お土産を買う時間。そう言って熊谷の顔を見る。熊谷が黙って首を縦に振った。女性三人が小走りになった。俺と熊谷はゆっくり続いた。
店内は菓子類からタオル、ポスター、郵便切手、キーホルダー等何処ででも見るテーマパークの品物だけど女性三人は品物選びと購入に時間を要した。