(サイカチ物語・第四章・古城巡り・37)

                 十八

 館山公園から五分とかからなかった。観光バスが何台も連なっていたけど、大きな駐車場でバイクを停める場所探しに困らなかった。

 パンフレットに、えさし藤原の郷は約二十万平米の敷地面積とある。熊谷が改札入口手前にあった無料休憩所に皆を誘った。そこで三日目の日程表を広げた。

 

「ほぼ日程通りの時間でここまで来たけど、この後の時間の過ごし方について相談したい。予定通り平泉で金色堂や毛越寺を見学

 するか、それを止めてこのテーマパークの見学時間を増やすかだけど・・」。

 そこまで聞いて、すぐに梨花だった。

「平泉はこれまでも何度か見ている。初めて来たここをユックリ見学したい」。

「私も。修学旅行でも温泉が目的の家族旅行でも平泉は寄っているし、金色堂も見ている。ここは初めて来たもの、時間をかけて

 見て回りたい」。

 ペットボトルを手にした京子が言うと、美希もここをゆっくり見たいと続いた。

 相談したいと言った熊谷自身がこの場の見学に時間をかけたかったのだろう。そうでなければ相談したいの声もなかったと思う。俺もこの藤原の郷に来たのは初めてだ。五人の意見は簡単にまとまった。

 

 美希が入園券を購入した時に貰ったパンフレットのマップを手にして、言った。

「じっくり体験コース所要時間一二〇分とあるよ」。

 皆が改めてマップを見た。お急ぎコース五〇分もある。

「予定では一関釣山公園五時五分到着予定よね。ここから一関までどのくらいかかるの?」。

「約一時間は見ないとね」。

 梨花の質問に熊谷が応えた。

「今から一二〇分と言うと四時半。ズレて一関到着が五時半頃。それでもいいんじゃない。その時刻なら周りはまだ暗くならない

 し、釣山も花泉の二桜城跡も見られる。

  藤沢到着が三十分遅れても一時間遅れても今日が最後だもの、楽しもうよ。打ち上げはその後からでも出来るよ」。

「決まり。それで行こう」。

 京子が梨花に加勢した。

「このルートで歩けば良いのね。行こう」。

 園内マップを見ながら、勢いよく梨花が皆を誘う。

 

 天空館の見学が最初だった。

 藤原清衡の生涯と、その時代に起きた奇異な天文現象を紹介した十分足らずの映画を上映していた。

 天空館の天井は青色発光ダイオードの星だ。輝いている。清衡の生誕と星の巡りを掛け合わせて話が作られていた。俺は面白かったけど、京子が、たまたまの星の巡り合わせを人の生誕のそれに理屈つけるのって好きじゃない、と言う。

 

 そこから次に八、九世紀頃の政庁を再現したという建造物を見た。政治や重要な儀式が行なわれた場所とある。板葺き板塀の建物だ。

「えーっ、何これ」。

「面白―い。触って大丈夫?」。

「怖い、怖い」。

 女性三人のトーンの高い声が上がった。そこは人の視覚の錯覚を利用したトリックの館だった。

 平安時代の牛車等の絵画が、傍にあるボタンを押すと突然立体的に目の前に現れる。触れようと手を伸べても空振りをする。掴むことが出来ない。長刀(なぎなた)を持った弁慶が四角い絵の中から手や足をはみ出す。それが観る者にいかにも絵から飛び出してきて襲いかかってくるように見える。そういう仕掛けが七、八点あった。トリックアート平安の館と名が付いていた。