(サイカチ物語・第四章・古城巡り・29)

               十四

 熊谷はテントの返却手続きのため管理事務所に行く。そのまま戻らずに陸前高田インターに向かう。

熊谷を見送って俺達の駐車場出発は午前八時五十分になった。

 昨夜の打ち合わせ通り、美希を乗せた俺のPCXが先導した。県道から大船渡碁石海岸インターで国道四十五号線に入った。

まだ通勤帯の時間のせいかお盆休みのためか一関方面に向かう車が多い。

 

「さっきの山道は結構きつかったか、大丈夫か」。

 後ろの美希に声を掛けた。

「大丈夫だよ」。

「美希、愛してる」。

「私も、俊ちゃん愛してる」

「なに?」。

 とぼけた。大きな声でまた、愛してる、と言った。俺の腹回りあった美希の腕に力が入った。俺は満足感を感じる。PCXを吹かして走らせた。

 

 陸前高田インターに着いて熊谷を探した。見当たらない。俺達の方が先に着いたねと言っていたら熊谷のセローだ。彼の後部座席は大きなブルーのバッグだけだった。

 熊谷がすぐ出発しようと言う。車列はいつもの通りの熊谷、梨花、京子、そして俺だ。三日目の日程表通りに国道三百四十三号線今泉街道に入った。それほどの遅れも無く予定していた道順に入るとそれだけで安心感が持てた。

 

 陸前高田インターから走りだして十五分ぐらいだ。珍しいループ橋だ。

「グルグル、面白い」。

 美希が後ろで言う。間もなく熊谷が停車した。皆が続いた。

「水分補給も兼ねて休憩しよう」。

 熊谷の判断に皆が頷く。周りは緑濃い山々が広がり、橋の下には旧道に沿って数個の家が点在していた。女性三人がループ橋をバックに写真を撮ってと並んだ。

 

 笹田峠の長いトンネルを抜けて大東町(だいとうちょう)の町並までは十分程だった。大原小学校を右に見て通過し、程なく一関市大東町大原市民センターと大原支所と書かれた立看の見えるところで熊谷が駐車した。

 大東町は二年前の市町村合併で一関市になっている。俺達の藤沢町は借金が多くて市町村合併に参加させて貰えなかったと父や学校の先生に聞いた。それが町中の話題にもなった。

 しかし、住居表示が変わったこの町に実際に立って、エッ、ここも一関?って俺は違和感を覚える。以前の町名を小さい時から知っている。一関市街の大きな町を思い浮かべて、山間のこの小さな古い町並を同じ一関として理解するのに抵抗感がある。

地域を表示していた東山とか磐井郡とか、古い呼び名がこうして消えていくんだなってなんとなく虚しさを感じる。

 地図を見ると、ここから五、六百メートルほど行って川内って有る所、そこから大原城址に上るみたいだ。熊谷が言った。

「バイクで行けるところまで行って、歩きだね」。

 

 大原城址の登り口に駐車が可能な路側帯が有った。そこから続く坂道を見ると四輪車の轍の跡が城址に向かっていた。

「もっと上まで車で行けるみたいだ。どうしよう」。

史跡を語る標識と案内板を前に熊谷だ。

「歩いた方が良いわよ。天気も良いし、山道を歩いてこそ古城巡りってことになるでしょ」。

梨花の言葉一つでバイクを置いて歩くことになった。