(サイカチ物語・第四章・古城巡り・28)

 

 まだ午前六時前だ。皆で音無しのラジオ体操第一等で身体をほぐした。

ここを八時前には出発しようと言う熊谷のかけ声に皆が頷いた。

 俺は、昨夜の燃え残しに新しい薪を入れて竈に火を起した。京子が米をとぎに行った。

梨花と美希がテントの中で自分の荷物をまとめることにした。

 熊谷は残っていたキャベツを刻んで味噌汁の具にすると言う。袋に入れてあるアジの三枚を外に出せば、それでクーラーボックスは空だ。その場でボウルに水を溜めてキャベツを洗い、クーラーボックスの上で簡易製のビニールまな板で熊谷が器用にキャベツを刻んだ。

 その後、熊谷はテントの中で寝袋のしまい方を梨花と美希に指導していた。寝袋は上手にたためばコンパクトになるし、下手に畳むとやたらガサ張る物になる。

 

 炊事場から戻って来た京子が火に掛かっている鍋を見て、どうしたのと聞く。

「味噌汁。残っていたキャベツを適当に刻んで全部入れた。具がキャベツだけだけど汁物はあった方が良いだろう?。その後でア

 ジの干物を焼く」。

 俺の説明に、京子は首を縦にして納得した。

「三人はテントの中で荷物をまとめているよ」。

 京子から受け取った飯盒を鍋の位置をずらして横に並べた。

 京子はテントに入って行った。代わりに熊谷がテントから出てきた。

 

「さて、今のうちに各自のバイクを点検しよう」。

 熊谷らしい。皆の安全を考える立派なリーダーだ。一緒に各バイク周りを点検した。特に問題は無い。熊谷のセローがやっぱり格好良い。

 女性三人がまとめた荷物をテントから出すと、今度は俺と熊谷が自分の荷物をまとめにテントの中だ。これが終わればテントたたみが待っている。女性三人に、味噌汁は出来たからと、アジを焼くよう依頼した。

 

 金網で焼いた三枚のアジは一枚を熊谷、一枚を京子と梨花、一枚を俺と美希で食べた。京子の采配を皆がOKした。食事が終わって、熱いインスタントコーヒーを飲める時間もあった。

「ここで朝食にして良かったね」。

 美希が言うと、京子だ。

「三枚のアジを五人で分けて食べたことだって、キャベツだけの味噌汁を啜ったことだって、みんな良い思い出になる」。

「青春だよね」。

 梨花が締めくくった。

 

 大駐車場を出発したのが七時四十五分。僅か六分足らずで穴通磯側の駐車場だった。そこから歩き出して三分程で穴通磯が目の前に見える展望テラスに出た。

「近かったわね」。

 梨花が言う。穴通磯はアルファーベッドのM字にも見える奇岩だ。泡立つ白波がその足周りを洗っている。

 穴を遊覧船が通ると案内板にある。その奇岩をバックに代わる代わる写真を撮った。塩の匂いが崖下からしてきた。

 

 その後で北緯三十九度線の標柱のある所まで行って見ようとなった。駐車場にバイクを置いたまま来た道を百メートルくらい戻って、左に曲がり、杉と雑木林の中を海沿いに下っていく道だった。途中まで四輪車の(わだち)が有り、ここまでバイクで来ても良かったかもねと話ながら道を下った。

 道は急に細くなった。山の斜面に造られ丸太で補強された道だ。急斜面を海沿いに下りたかと思うと、海に平行して落ち葉のでこぼこ道を上り下りの連続だ。女性三人が急斜面では、危ない危ないとキヤー、キヤー言い、上りでは、きついねと言った。

 帰りはこの逆よね、大変と言いながらも足を休めなかった。

 

 穴通磯前から歩き出して片道十五分は優にかかった。黒い文字で北緯三十九度〇〇分〇〇秒と書かれた白い標柱は小道の海側にあった。俺は、松と青い海を背景に妙にマッチしていると思う。

足場の安全を考えると傍に立てるのは二人が限度だ。標柱を横に交代で写真に収まることにした。

そこから巾着岩(きんちゃくいわ)を遠望出来る。女性三人が海に浮かぶ巾着の形をした奇岩をバックに写真に収まるときだった。

「財布の口を閉めまーす」。

 梨花がそう言うと、口を真一文字にして頰を膨らませた。後でデジカメを見ると、京子と美希が両隣で笑顔という奇妙な写真になっている。皆で見てゲラゲラ笑った。海猫が巾着岩の周りをキーキーという声を出して多く飛び交っている。