(サイカチ物語・第四章・古城巡り・27)

 

 突然、俺達の歩いている前後からワーッと歓声が上がった。一望の水平線に光を帯びた太陽が昇り始めた。

 周りの人達も俺達五人も海に向かって足を止めた。雷岩から海猫が白い羽を休めている千代(ちよ)(じま)に向かう途中だ。

 晴天の空だ。雲一つ無い。目の前に白く丸く光輝く太陽が姿を現わし始めた。

 太陽の光の帯が陸に向かって一直線に海面を伸びて来る。まるで光る絨毯(じゅうたん)を敷いて俺達を海に誘うかのようだ。

海面がキラキラと広がって輝きを増していく。丸く光る太陽を一層引き立てる。その美しさと神々しさに誰もが声も立てず、ただ佇むだけだ。

 梨花も京子も凄いと言ったきり固唾を呑んで太陽と海を見つめる。熊谷は満足そうな顔をしている。

美希が俺の左手を握ってきた。そして言った。

「神様が居るみたい」。

海を見たまま呟く美希の横顔が美しい。

空の青さが海の青さと輝きに負けている。

 

 しばらくの静寂の後、あちこちで写真を撮るシャッター音が響いた。

逆光だけど俺達も輝く太陽と海面を照らす陽光を背に代わる代わる写真に収まった。京子の指示で俺と美希だけが立つ写真も撮った。

 周りの人達が動き出して、小さな子供が混じる家族連れが多いのに気づいた。子供も多いのにあの朝陽の昇った数分間の静寂はなんだったんだろう。そう思いながら、答の出ないまま歩いた。

 

 通る傍の白い砂と緑の芝生に囲まれて東屋が建てられてある。屋根と四角形に柱が建てられてあるけど壁がない。風変わりな祠だと思いながら覗いた。天井を見ると、横に渡された梁の上に海神様が乗っかっていた。

「えっ、あっ、ホントだ」。

 梨花が京子の指さす海神様に声を出した。案内書きの鋼板には海の航行の安全を祈願して奉納されたとある。郷土が誇る大工の匠の作品だと紹介している。俺は、残りは今日一日だけどこの三日間の小旅行の安全を祈願した。

 

 そこから僅か離れて、十メートル程の高さの灯台が有った。碁石埼灯台とレリーフに刻まれている。

「灯台って、みんな形が違うのかしら。昨日見た神割崎の灯台と形が違うね」。

 梨花の質問だけど、誰も答を持っていない。白亜の灯台の光は二十三キロ先の海上まで届くと案内板にある。

灯台から岬までは歩いて二、三分だった。案内板に碁石岬は末崎半島の先端に位置するとある。

 五時を過ぎたばかりなのに周りがすっかり明るくなった。遙か彼方まで海の青さを一望出来る。天気の良い日には牡鹿半島も見えると案内板にあるけど、天気が良すぎて霞んで確認出来ない。

 突き出た展望テラスで、傍に居た俺達と同じ観光客にデジカメのシャッターを押して貰った。五人が揃って写真に収まるのはこの古城巡りで初めてだ。

「ここまでだね」。

熊谷が言う。コース地図にあるこの先のえびす浜等に行かない事を意味する。

「十分堪能したわよ」。

「うん、十分」。

「ご来光を拝めたしね」。

京子の言葉に、梨花も美希も続いた。

 熊谷も俺も、皆が満足していた。

 来る時はユックリ歩いたけど、帰りは二十分程度で自分達のテントまで戻れた。