(サイカチ物語・第四章・古城巡り・24)
「紙の皿に乗せると皿が焼け焦げる。下手すると穴が開く。味噌汁用のスチール椀にホタテを殻付のまま入れる、タラバも配るか
らそれで食べて。火傷しないように気を付けて。味噌汁をよそうのはその後だね。」。
熊谷の忠告入りの説明だ。ホタテとタラバの足を食べるときは誰もが無口だ。それから口々に美味しかったーだ。
「サンマとアジは皮や身が金網にくっつき易いから後で焼く」。
熊谷が言いながら、今度はカツオの切り身とイカだ。金網に乗せた。
「カツオは刺身でも食べられるけど、焼くの?」。
「炙りカツオだね」。
熊谷の代わりに俺が応えた。
トングを京子にバトンタッチした梨花だ。焼けて丸く縮んだイカの身を箸の先にしておどけた。
「これが私の捌いたイカね。可哀相だけどいただきまーす」。
「真っ黒でなくてよかったね」
京子が炊事場の事を思い出させた。美希が微笑んでいる。
炙りカツオもニンニクが無いけど美味しかった。サンマも新鮮でおいしかった。特にサンマは季節的にまだ店に出回り始めたばかりなハズだ。脂が良く乗っていた。焼くときにポタポタと脂が火に落ちて、そこが黒くなった。
皆で一緒に野外で食べると、ご飯も味噌汁も口にする物全てが各別に美味しい。皆の食欲は旺盛だ。
熊谷は何故かクーラーボックスにアジの干物を残した。焼こうとする気配がなかった。
金網に残るイカをひっくり返しながら熊谷が言った。
「明日も天気は良いって予報だ。早起きになるけど明日の朝、太平洋に上るご来光を仰ぐ」。
「えーっ。見れるの?嬉しい」。
梨花の喜ぶ声に京子が続いた。
「見たい。見たい。頑張って起きるよ」。
皆に笑いが生じた。
「日の出の時刻が四時四十五分頃だから、遅くとも四時半前に起きないと」。
俺が今朝体験した金華山の日の出から考えて熊谷の言う時刻は間違いないだろう。そして熊谷が相談だと言った。
「ご来光を仰いだ後、周辺の景観を見て歩く時間にしよう」。
皆が頷いた。熊谷は受付手続きの際に貰った施設案内パンフレットを配った。
指摘するところを見るとキャンプ場の徒歩周遊コースが一周七・五キロと有る。海岸線だけを往復歩いても七キロはありそうだと言う。熊谷も俺も日程表を作る時には分からなかった。
「キャンプ場からパンフレットの写真に載っている見どころ、穴通磯までは約3キロ、片道四十分強とある。反対方向の碁石岬
までが一キロちょっと、片道約十五分とある。まともに歩いたら海岸線だけでも往復二時間だ。
明日行く先々の予定を考えるとその時間の消費は無理。
それでだ、ご来光を見た後、碁石岬までの往復見学と写真を撮る時間で約一時間を消費し、穴通磯の見学を諦める。その上で
朝食を何処で摂るか、二つのうちのどっちかだ。
一つは碁石岬から戻って朝六時、六時半になる。売店やレストハウスは営業が午前九時からで開いていないから朝食無しでこ
こを七時頃までに出発して、大原町か摺沢の猊鼻渓辺りの喫茶店かコンビニで朝食にする。
もう一つは六時頃からこのキャンプ場でご飯を炊いて朝食を摂る。後片付けの時間を計算に入れて七時半か八時頃に出発出来
ると思う。三日目の予定の日程表より一時間以上は早い出発になる。どうしようか。皆の意見を聞きたい」。
穴通磯はパンフレットに別格に扱われている写真スポットだ。そこの見学を諦めると聞いて、皆、すぐには良いとはならない。