(サイカチ物語・第四章・古城巡り・22)

                 十二

 県道三十八号線を通り、碁石海岸キャンプ場に着いた時は午後六時を少し回った。

 途中にあった商店(みせ)で熊谷が味噌汁用に長ネギと豆腐、それに焼いて食べようとアスパラを一束購入した。キャベツは昨日の残りが半分あると言っていた。

 

 管理棟で手続きをしてテントを借りた。薪を一束買った。受付の傍にレンタル用品と販売用品の一覧が張り出されてある。

「これなら手ぶらで来ても泊まれるし、バーベキューも出来る、安いと思わない?」。

 

 梨花の言葉に皆がそうだねってなった。レンタル用品に鍋、釜、ボウル、ざる、まな板に包丁、お玉、しゃもじ一式セット千円、各二百円と有る。

 ステンレス鍋セットがフライパン付で五百円、串六本セット二百円、毛布一枚三百円、寝袋五百円等と有り、食材も有った。

 お肉セット又は海鮮セット三、四人前で三千五百円だ。割り箸十組二百円、薪一束五百円、木炭一箱三キロ五百円等とある。

俺と熊谷は、牡鹿半島のキャンプ場と同じように食材は自己調達と思い込んでいた。

俺と熊谷の調査不足だった。そのことを言うと、京子が、今度(また)のご利用をお待ち申しておりますと洒落(しゃれ)た。

 

 途中、炊事場とシャワー室の場所を確認して、起伏の多い松林の中の遊歩道を歩いて指定された区画サイトに行った。

個別サイトの確保は無理だと思いながら月の始めに熊谷が確認の電話を入れ、運良くキャンセルの出た区画を予約出来ていた。テントを張る場所探しをしなくて済む。

 それにこのキャンプ場には区画サイト毎に(かまど)が据え付けられていた。鍋等を乗せる所がステンレス製で薪や木炭を焚くところは空気穴が通っている。

「これは良いよ。誰でもキャンプ場初体験にはもってこいだよ」。

「手ぶらで来て、出来るって良い」。

 俺と梨花だけではない。それぞれが感想を漏らした。

 

 サイトの場所が分って、各自バイクを傍に持ってくることにした。

 皆で協力してテントを張った。寝る場所と荷物置き場を確保すると並べてレジャーシートを敷いた。

 熊谷が竈に火を焚く準備をして、俺と女性三人がクーラーボックスを抱えて炊事場に向かった。赤松と黒松の林が続く道は林間学校にきた錯覚を起させる。だけど、下の方から聞こえてくる潮騒の音と潮の匂いが海辺にいることを思わせた。

 

 サイトから炊事場はさほど離れていなかった。皆が使う時間帯で混んでいたけど蛇口を確保するのに困ることは無かった。同時に幾組もが利用できる蛇口の数だ。

 俺が米をといだ飯盒と水を汲んだウオータータンクを抱えて先に戻り、残る女性三人がバーベキューをする食材の下ごしらえに取り組むことになった。

 

「これだとバーベキューもやり易いね。時間も短縮出来る」。

 俺が火の入った幅のある竈にお湯を沸かす鍋と飯盒を置きながら言った。

「彼女達、戻ったらすぐシャワーだね。海に入ったから俺達も今日はシャワー浴びたいもんね。大谷海岸のシャワーだけじゃあ

 ね」。

 熊谷の言葉に頷いた。キャンプも二日目で少し余裕を感じていた俺だったけど、施設設備の利用には何処(どこ)でも制限時間がある。俺の腕時計は午後六時四十分になる。

 

「彼女達、急がせないとヤバいね。俺達のシャワー時間が無くなる。もう一度行って来るよ」。

 買ってきた魚類と野菜を洗って適当に切って来るだけなのに三人の帰りが遅い。 

 

 炊事場に入ると、京子が俺の姿を見つけた。

「ねえ、これどうするの?」。

 左手にイカを持っていた。

(さば)いて金網で焼くよ」。

「そうじゃなくて、捌き方が分かんないのよ」。

 

 俺が小型包丁でイカの身に縦に切り口を入れた。開いた身を見ながら説明した。

「これが腑、塩からの素、これが墨、イカスミの素、これを破かないように後ろの方に包丁を入れて切り離す。出てきたこれがイ

 カの軟骨。透きとおっているこの軟骨を引っ張って取る。軟骨のついていた根元部分、固いのでこれを包丁で切り離す。

 ゲソは目の下で切り離し好みの本数に切る。こっちの目の(あいだ)辺りをぐっと押すと、ほら出てきた。この黒いのがイカの嘴」。

「えっ、本当。なんか、漫画で見たカラス天狗の嘴」。

「で、一丁出来上がり。後は焼きやすい、食べやすい大きさに胴体も切るだけだ」。

「ヤルー。及川君よく知ってるね」。

「そりゃそうだよ。大谷海岸の手前に本吉(もとよし)歌津(うたつ)があったろう。あそこから俺と美希ん()のある大籠は車で一時間足らずの距離な

 んだ。小型トラックに魚を積んだ浜の行商人が週に一度、俺ん()の店に魚を置いていく。

  委託販売を任されていて親父に魚の捌き方を教えられた。魚の三枚おろしも出来るぞ。サンマとか鰯の新鮮な刺身、皮むきだ

 ってお手の物」。

 京子のヤルーにちょっと自慢して応えた。

 梨花がチャレンジと言ってイカの捌きに掛かった。途中、内蔵の腑袋も墨袋も破けた。黒くなったイカの胴体を持ったまま梨花が足を踏みならしてきゃーきゃー騒ぐ。京子も美希も笑い転げる。

「他の人も居るよ、静かに」。