(サイカチ物語・第四章・古城巡り・18)

                十

 志津川(しづがわ)(わん)を右に見ながら国道三百九十八号線を走った。

 その道路は戸倉という所から志津川まで国道四十五号線と重なっていた。志津川を通過して歌津(うたつ)の町までの間、気仙沼線の線路が右に見えたり左に見えたり道路もかなりの曲線の連続だ。

 歌津駅入口の標識を通過して歌津バイパスの右側にコンビニがあった。熊谷が先導した。俺の腕時計は午後一時前だ。神割崎キャンプ場の駐車場を出発したのが十二時五分過ぎだったから途中小休止はしたけど一時間近く走り続けたことになる。三十四、五キロの道のりだった。

 

「きつかったかな」。

 熊谷が慰労するように京子、梨花に声を掛けた。

「十分は休もう」。

 店の中は冷房が効いていて気持ちよい。俺は眠気覚ましにガムを買った。美希はカリンの喉飴を買っていた。他の三人も思い思いにチョコや飴を買っている。勿論、水分補給になるペットボトルの購入は欠かせない。コンビニって何処にでもあって便利だなと改めて思った。

 新しい町の誕生を伝えるポスターが店外に貼られたままだ。

「南三陸町ってなってるね。二〇〇五年十月だから・・、まだ二年経っていないんだ。志津川町と歌津町が合併して出来た町って

 書いてある」。

 言いながら買ったばかりのガムを皆に配ると、皆が自分の買った飴等を出して配った。

「地図だと後五キロぐらいカーブが続く。だけど、そこを過ぎれば大谷(おおや)海岸(かいがん)まで緩やかな道だ。一時五十分頃には大谷海岸に着く

 と思う。頑張って行こう」。

 

 熊谷にしては珍しく語尾の声を大きくした。

「海に入れるね。シュッパーツ」

 梨花が元気に声を出した。美希も京子も笑っていた。足下のコンクリートは熱いし、被るヘルメットに陽射しが強い。

 

 時刻は一時四十分を少し回っていた。梨花は駐車場にバイクを停めると、水着、水着と言いながら誰よりも先に荷物をほどき始めた。

 傍を人が通るけど俺達は気にせずにバッグを広げた。更衣室はどこかしら。梨花が、早く砂浜に遊びたかったらしい。

 

 大谷海岸の駅舎は道の駅に併設されていた。建物全体はグレーと茶色のツートンカラーの二階建てで横に長い長方形だ。出入口が左端側にあって、その更に左側が半円筒形の形をして出入口より前に突き出ていた。その半円筒形の二階部分にマンボウの絵が描いてある。

「可愛いー、マンボウ、中にいるのかしら」。

 美希が振り返って俺の顔を見ながら言ったけど、俺が知るわけがない。曖昧な笑みを返した。

 

「いる、いる、いるとおもうよ。そうでなかったら嘘つきじゃん」。

 京子が俺の横で言いながら通り過ぎた。美希の左手を握って誘って行く。

 

 自動ドアの出入口の上には「はまなすステーション」とある。入るとすぐに物産品の販売所だった。駅の改札には右に行くらしい。左側がマンボウのいるアクアリウムだ。たまたま漁網に掛かったマンボウを飼育していると説明書きがあった。

「マンボウって暖かい南方に住んでるんじゃないの?」。

 俺が口にしたけど誰の答もなかった。女性三人はマンボウの目が可愛いとはしゃぎ、回遊するマンボウをバックに写真を撮ってと催促した。

 俺がタイミングの良いところでシャッターを切った。俺と熊谷も京子のデジカメに並んで収まった。他の観光客も同じようなことをしている。

 

 売店に人が多く居たからそのようには見えなかったけど駅は無人駅だった。駅舎の二階から線路を跨いで海水浴場側まで歩道橋が架かっていた。

 それにもちょっぴり驚いたけど入ってくる電車は足の下だ。足の下に停まる。子供立達の声が賑やかだ。大きな歓声だ。

日本一海水浴場に近い駅とある看板に納得した。