(サイカチ物語・第四章・古城巡り・15)
朝の目覚めの音も静かな潮騒だった。
隣で寝袋から顔とTシャツの両肩を少し出している美希を見て海辺に寝ている自分が不思議な気がする。美希の寝顔を見るなんて勿論初めてだ。両肩から続き寝袋に隠されている胸の膨らみの線に抱きしめたい衝動にかられる。
反対隣に梨花、熊谷、京子が寝ている。
俺が誰よりも先に目が覚めたらしい。腕にしたままの時計を見るとまだ午前四時半前だ。そっと抜け出した。すでに周りは明るかったけど、松林の中でどのテントも静かに眠りについたままだ。火照った体を深呼吸と音無しのラジオ体操第一で鎮めた。
寒暖の差が大きいからだろう、芝生の上は露に濡れていた。
目の前の煤けた竈がそのまま昨夜の宴の後を語っている。就寝は午後十時半頃だった。
熊谷と二人、十時少し前に炊事場の水でタオルを濡らして躰を拭いた。そのタオルに水を含ませたまま持ってきて、ウオータータンクの水と一緒に燃え残しの木に掛けた。
灰や炭化した燃え残りの木は穴を掘って埋め、大きめの石を載せた。熊谷は、後は明日の朝に片付ければ良いと言った。燃え残りの木は掘り起こし、ゴミとして指定の場所に捨てる。竈は崩して大きな煤を洗い落とすのが次に使用する人のためのルールだと教えてくれた。
テントに戻っても眠れそうに無い。俺は音のしないように気を配りながら竈崩しを始めた。しゃがみ込んで、残っているウオータータンクの水で煤落としを試みた。突然、背中の左斜めから陽の光が手元に、周りの芝生に、松林に広がった。
驚いて振りかえると金華山から朝陽が昇っていた。一瞬、白みがかって輝く太陽が頭で、黒い金華山が胴体のように見えた。
朝陽が逆光の中で金華山を包み込むようにしていた。
木々の間から見える朝陽に輝く海面と周辺の芝生を照らす漏れ来る光の美しさに立ちつくし、しばらく見とれた。空は青空だ。
「まだ寝てる?」。
「ううん、今着替えてる。すぐ終わる」。
テントを覗いた美希の報告だ。後は京子の支度とテントを畳むだけだった。
「お早う。皆、早いねー」。
乱れた髪を両手で梳かしながら言う京子に、熊谷が応えた。
「ごめん。そうなんだ。まだ六時を過ぎたばかりなのに皆が起きちゃって。どうしてもテントが明るくなるから目が覚めるのも早
くなる。洗面所は炊事場の有ったサニタリー棟だよ。戻ったら出発の用意をして出かけよう」。
「食事は?」。
「皆で、女川の町に行って食べようってことになった」。
出発の準備が出来ている梨花と美希が京子に付き合ってサニタリー棟にまた出かけた。
今日の三人の服装は京子が花柄のパンツにピンクの半袖Tシャツ、梨花が明るい紺地のデニムパンツに赤と紺の縞柄の半袖Tシャツ、美希がダークグレーのスキニーパンツに白と黒の縞柄半袖Tシャツだ。
女性のファッションをマジに観察すること何て今まで無かったから自分でも楽しく思える。
熊谷は、今日は黒地の半袖Tシャツに「絆」と白く抜かれた文字を背負っている。
俺は熊谷に畳み方を教えて貰いながら一緒に五人分の寝袋を整理した。それが終わると一緒にテントを収納した。それを返しに俺が管理棟に行く事になった。何から何まで俺に取っては初体験だ。
戻って来ると、熊谷は、クーラーボックスとバッグ等を京子のカブに括り付けていた。その後、昨日の出発時と同じように、俺の掛け声で皆で体操と準備運動で体をほぐした。