(サイカチ物語・第四章・古城巡り・13)

 

 それが終わると、飯盒キャッチャーだという。熊谷が写真を撮るときの三脚みたいな物を取り出したのには正直驚いた。バイクに積んでこんなものまで持参していたのかと感謝の気持ちが沸いた。竈の近くに五人が座れる程の大きめのレジャーシートを敷いた。   

「車座で食べるしか無いね。荷物が多くて簡易テーブルは持参できなかった」。

 折りたたみの小さな椅子を二個持ってきていた。

 女性三人が切った野菜をタッパーに入れて戻った。完成した竈でお湯を沸かしている光景に三人はそろって歓声を上げた。熊谷と俺は飯盒(はんごう)を覗いた。

「水の分量は大丈夫かな?これに醤油とかみりんが入るけど」。

 熊谷の心配だ。

「お釜と違ってこの飯盒にメモリが無いんだもの。母が炊き込みご飯であっても水はくるぶしまでって言っていたからそれで見当つけた」。

 京子が言う。

「大丈夫よ。水の分量は計ったから。醤油はその蓋のキャップで二杯。お塩二グラム程度、みりん、お酒が無いけど仕方無い

 ね」。

 美希が言った。すると熊谷が言った。

「いや、及川に持って貰った青いビニール袋の中に醤油の外にも塩とか、みりんの小瓶が有るはずだ」。

 俺はバッグから米と一緒に取り出しておいたままの青い袋を開けてみた。懐中電灯、ランタンの外に醤油、みりん、料理酒と書かれたラベルの小瓶や味塩の小瓶、七味唐辛子や削り節の出汁(だし)パックが入っていた。コーヒー、紅茶を飲むときのステック状の砂糖やミルクも有る。

「あら、あるの。みりんも料理酒もキャップの蓋で二杯。その分、水は捨てましょう、そうしないと水分の多いびちゃびちゃの炊

 き込みご飯になる」。

 俺は美希の指示に従った。その後で、具を入れ、京子がかき混ぜようとした。また美希の指示だった。

「かき混ぜると具の煮具合にも味にもムラが出るの。具はお米の上に載せるだけにしましょう。」

 炊きあがったら具を混ぜるのだという。

「美希ちゃん詳しい」。

 梨花が美希の肩を抱くようにして言った。見ると腕時計は六時四十五分を指している。周りが暗くなり始めていた。

 沸いたお湯を注いでインスタントコーヒーを淹れた。砂糖、ミルクの要る人?って俺が声を掛けたけど、誰も要らないと言う。  

 ブラックのまま飲んで皆が美味しいと言った。潮風と共に味わうコーヒーは特別に旨い。

 

 竈には代わって飯盒がぶら下がった。食事の下準備が整ったせいか、俺も皆も、やっと周りを見る余裕が出来た。

 松林の中に黄色や赤や青いテントがあちこちに思い思いの方向に広がっている。四、五人で来た職場の仲間風のグループが目立ったけど、キャンプ場の名前の通りに家族連れも多い。

 梨花が、炊事場はお母さんお父さんと一緒の子供達が多かったよと言う。ご飯が炊きあがるまで約一時間ある。今日歩いてきた佐沼城や須江山等の話になっている中、熊谷が、明日の予定の変更について話したいと言った。

変更案は三人が戻って来る前に俺と熊谷が話して、決めた。

 

「今日一日の体験と皆の運転技術から見て、明日の行程のキャン場から女川まで抜ける道は海岸線を避けたい。尾根道を行くコバ

 ルトライン一本にしよう。それで女川原子力PRセンターの見学が無くなる、海の景色を右に見ながらの走行は出来なくなる。

 それでも安全第一を優先させたい。曲がりくねった海岸線の道の走行を避けたい」。

 お互いに運転技術の不足を痛感した一日だった。女性三人は誰も反対しない。

「コバルトラインもカーブが多いのかしら」。

 梨花の質問に熊谷が答えた。

「行って見ないと分からないが海岸線よりは絶対少ない。地図を見る限りそれは言えるね」。

 それで変更案は了承された。周りに炊き込みご飯の香ばしい匂いが漂い始めた。

 

 七時十分を少し回ったところで、女性三人がシャワーを浴びに出かけた。俺と熊谷は利用制限時間内にシャワーを使えなかったら、水のある所に行って濡れタオルで躰を拭けば良いやと話した。ご飯が炊きあがった。