(サイカチ物語・第四章・古城巡り・12)

 

 そこからキャンプ場までの道は半島突端を回る近距離のドライビングだった。やっと運転にも軽快感が出た。

おしか家族旅行村オートキャンプ場に着いて、改めて事故が無かった事にホッとした。それが皆の気持ちだった。

俺の腕時計はもうすぐ午後六時だ。寄り道をしたとはいえ半島に乗り入れて一時間半を要した。キャンプ場の管理棟の中は人は居たけど、受付に並んでいる人は居なかった。

 

「人影が少ないけど俺達の到着は遅い方になる。既にテントづくり、テントの中、皆は炊事の最中だよ」。

熊谷の状況説明を聞きながら、テントを借り必要な手続きを終えた。

 貰ったパンフレットを広げてフリーサイトの位置を確認した。キャンプ場の八月は繁忙期だ。予約が遅かったから場所の良い個別サイトは確保出来なかった。

 シャワーの使用は無料で空いていればいつ利用しても良いという。但し、利用は午後八時までと制限があった。

 

 表に出て、三人は先に行ってテントを張る場所探し。俺と美希はPCXに借りたテントと購入した焚き火用の端材の束を積んで彼等の後ろ姿を目で追いながらゆっくり歩いた。

 フリーサイトと決められている場所は管理棟から割合近かったけど、雑木と杉の林が邪魔をして目の前の海や金華山の眺望が良くない。また炊事室、洗面所、トイレ、シャワー室のあるサニタリー棟から離れていた。

 

 それでもテントを張る場所も炊事用に自分達で竈を準備するところも緑の芝生の上だ。五人用のテントを張るのに十分な平坦地を確保出来た。テントを張るのは熊谷以外、皆、初めて経験する。テンションが上がる。

「昼は海側から風が来るけど夜は山側から風が来る。だからテントの出入り口は風の来ない海側にする」。

 熊谷の説明に外の四人はそうなんだと感心した。熊谷の指示に従ってテント張りに皆が協力した。姿形(すがたかたち)が出来上がると本当にキャンプが始まるんだとワクワクしてきた。目の前のブルーと黄色のツートンカラーのテント完成に自然と五人の笑みがこぼれた。女性三人の拍手につられて俺も拍手だ。

 

 テントの中に薄い銀マットを敷いて梨花が積んできた寝袋を並べてみると、五人用のテントの中は目一杯だ。足下の方に各自の荷物を置くことにした。

 それから女性三人は炊事室に行って来ることになった。

「料理得意な人」。

 俺が手を上げて誘うように言った。誰も手を上げない。皆、私、食べる人になってしまった。

笑い声が大きかった。高揚感がそうさせる。

 熊谷が他の人も居るから静かにと制した。そして、簡易ウオータータンクに水を汲んで来るのにも、バイクで行った方が良いと指示した。梨花がOKと応える。その声も弾んでいる。

 

「ご飯は炊き込みご飯。米は四合で良いだろう。具の人参、牛蒡、椎茸に蒟蒻、油揚げに鶏肉を適当な大きさに切って京子がクーラーボックスで持参している」。

 熊谷の説明だ。梨花が反応した。

「えーっ、そうなの、有り難う」。

 そしたら、京子だ。

「母に伝えときます」。

 笑いが起きた。

「無理、無理、無理。熊谷君に下処理って言われたけど、私やったことが無いから殆ど母がやって、私は見ているだけだったんだ

 から」。

 美希が笑顔のまま手をたたいた。

 

 三人は米とぎと持参した玉葱、茄子、ピーマン、椎茸、キャベツを適当な大きさに切りに行った。その後のクーラーボックスを見ると、それぞれの袋に入ったネギマ、スペアリブ、アサリ、増えるワカメ、味噌、氷が残っていた。

 熊谷が、スペアリブ十本、ネギマ十本、一人二本ずつ分焼く。アサリとワカメで味噌汁を作ると言う。

 

「竈を作ろう。竈は風上方向に焚き口を開ける。テントの出入り口と逆だ」。

 熊谷と一緒に石集めだ。前に誰かが使った石を集めるだけだから困ることは無い。大きな石を基本にして小さな石で隙間を支えて安定させる。コンロや焼き金網などを乗せたときにグラつかないようにする。U字型に三十センチぐらいの高さに積めば安定した火力が得られる。

 熊谷の指示に従いながらも、彼に借りた「るるぶのキャンプと焚き火」という本の説明書を思い出しながら一緒に石積みして安定感を確認した。