(サイカチ物語・第四章・古城巡り・9)
先生のまねをした訳じゃないけど俺はお線香を持参した。熊谷もそうだった。熊谷が背中のリュックサックから箱に入った一束のお線香と使い捨てライターを取り出した。
それを見て京子が笑う。京子もお線香とマッチ棒を数本入れた大型のマッチ箱をポシェットから取り出した。お線香を半分に折っていた。
「俺も持ってきた」。
言いながら、ポシェットからビニール袋と新聞紙に包んだ一束のお線香を出した。岩城先生に須江山の惨劇の話を初めて聞いた三人が同じ行動をしていた。
「なるほど、そういうわけか」。
梨花が頷いて小さく笑った。
「お盆だしね」。
美希が言う。京子が続いた。
「私達の血に、遠い、遠い昔の憤死した人の血が流れているかも知れないよ」。
熊谷が小さいスコップを取り出したのには脱帽だ。用意周到なのだ。少し穴を掘ってそこにお線香を置こうという。
「ちょっとお線香が多すぎて燃え尽きるのに時間がかかるよ。お墓に持って行ったお線香は持ち帰るものではないってお爺ちゃん
が言ってた」。
梨花が言う。熊谷も俺も京子と同じように線香を半分に折って火を点けることにした。
「五人の心ここに有りで、時を超えてお焼香しよう」。
俺の言葉に合わせるように、美希が濃い茶とロゴの入ったペットボトルをその側に置いた。やがて束になったお線香の紫煙が青い空に延びていく。
俺は傍に立つ熊谷に聞いた。
「さっき、桑島さんに質問はあるかと聞かれて、質問しそうでしなかったのはどうしてだ?」。
「昭和十五年の一九四〇年に葛西大崎家尽士の三百五十年、慰霊祭が行なわれている。それにまつわる物と言うか関連する集まり
が今もあるのか続いているのか、聞こうと思ったんだけど・・・、今日は時間が無いと思ったから止めた」。
「慰霊祭?、それって、なんで知った?」。
「先生に借りた「仙台領の戦国誌」に書いてあった」。
熊谷の探究心って凄い。俺より進んでいる。
「時間が出来たら自分で調べて見る」。
言う熊谷の顔は笑顔だ。
山を下りるときに俺と熊谷でお線香の灰に土をかぶせた。そしてその周辺に供養のためと心で祈りながら、美希が提供したお茶を俺が撒いてペットボトルを空にした。
佳景山駅に戻ると午後三時を十分過ぎていた。所用時間が予定よりオーバーしたけど、桑島さんの家人の話を聞けたこと、予定通りに現地を探し当てられたことで俺には満足感がある。駅舎で水分補給とトイレ休憩の時間を取った。
出発を二十分遅れの三時二十分にする、という熊谷の提案を皆がOKした。