(サイカチ物語・第三章・藤沢野焼き祭り・19)
十五
美希が退院して一週間になる。今朝は小父さんの自家用車で美希は町民病院行きだ。今のこの時間、外来で診察を受けているはずだ。手術した後の傷口が順調に回復しているかどうか、それを診るだけだから心配ない、昨日、下校途中の坂で俺の顔を見ながら笑顔を見せて言った。
腕時計はもうすぐ三時限目が終わる午前十一時十分だ。多分、四時限目か午後から授業に出られると思う。そう語った美希が気になる。今朝は小父さん小母さんが一緒だ。
小父さんは仕事があるから二人を病院に送り届けてすぐに帰る。院内は小母さんが美希に付き添う。主治医の佐藤先生の説明を二人が一緒に聞くことになっている。その後、美希は学校に、小母さんはバスで家に帰ると聞いている。
バスは町を十一時四十九分発。それを逃すと午後二時二十四分発まで大籠方面行きのバスは無い。バス利用が滅多に無い俺は、昨日の帰り道で美希にそう聞いた。
美希が教室に顔を見せたのは昼時間だった。十一時半には小母さんと早めに昼食を食べて、バス利用になれていない小母さんをバス停に案内して見送ってから来たという。
昼食を摂り終えたばかりの梨花、京子、優子、それに静香やたき(畠山)など数人が、俺を押しのけて美希を取り囲んだ。
「術後の経過に特に問題は無かった。後は八月一日、病理検査の結果ね。そっちの方が大事、治療方針が決まるの」。
女性軍の取り囲みの後ろで美希の語る状況報告を聞いた。それだけ耳にすると俺は安心した。
「今日は三十度を超える夏日だ。外は暑かったろう」
美希の話が一段落した所で声を掛けた。美希の顔を俺の方に向けたかった。美希は白い半袖シャツだ。目が俺に向けられると、それだけで満足して輪を離れた。
昼の休憩時間はもう残り少ない。だけど、さっきから藤沢スポーツランドで開かれたモトクロス選手権の事を話す小野寺が気になった。囲みに加わった。どうやら会場に入って間近に観たのは彼だけらしい。
前日の土曜日が土砂降りの雨で日曜日の朝まで少し雨が残った。レースが行われた時刻には青空が広がったけどコースが濡れていて滑り易い状態だったという。落車のトラブルが続出。コブを飛び越えるバイクと爆音がスリル満点だったと身振り手振りを入れて説明する。結局、釘村という選手が独走で北海道大会に続き二連覇だったと面白く話す。話す本人が今も一番興奮している。
今度の土曜日から夏休みだなと思いながら自席に戻った。