(サイカチ物語・第三章・藤沢野焼き祭り・12
言われるままに鍵をして振り向いた。
「オ、ソ、イー」。
美希が目の前だった。俺の胸に飛び込んできた。薄い浴衣地を通して体の温もりを感じる。背伸びして両手を俺の首に回しているだけに胸の膨らみもお腹の動きも感じた。キスした口はミントの味がした。そのままベッドの端に並んで腰を掛け、しばらく胸の中に抱いていた。髪の匂いがいつもより良い匂いがする。耳元に香水を使ったみたいだ。
俺のドキドキしていた胸は少し落ちつきを取り戻した。
「ずっと待っていたのに・・、来るのが遅いんだもの」。
「小父さん達はいつ帰った?」。
「夕方、五時前。今まで何をしていたの?」。
「今日は新聞部の部活の日だ。皆の将来の夢、目標、例のアンケートの回答をどのように割り付けるか、三人でパソコンでシュミ
レーションしてた。
再提出が必要な人もいるからまだ確定は出来ないけど、ある程度の割り付けのイメージは出来た」。
「皆、なんて書いているの?」。
「いろいろだよ。まだ分りませんっていうのもあったけど、正直な気持ちだろうね。面白いのに、可能性は無限大なんて書いてき
たのがいた」。
「そういうの、どうするの?」。
「先生のアドバイスも入れて、まだ分りませんって回答した人も含めて、将来進みたい方向を、何々の関係に従事したいとか、
何々の方向に進みたいとか、それで再提出して貰うことにした。改めてお願いしたけど、反対や異議を唱えたのはいなかった
ね」。
図書室での芳賀の事が、ちらっと頭を過ぎった。
「将来の夢・・」。
美希が呟くように言った。そして、またキスを求めてきた。今度はなかなか俺の胸から離れなかった。美希の形良い胸の谷間が見えた。体を離した。
「見て」。
目を見ると真剣な顔だ。美希の肩に回していた俺の両腕を抑えて、二人の間に回った俺の両手を美希の両手がつかみ直した。そして両方の胸に持っていった。思わず引こうとしも俺の手を離さなかった。浴衣とブラジャーを通して肌の温もりを感じる。
「見て。傷のない今の私の胸を見て」。
俺の目を捉えて、強い意志を現わす言い方だ。言葉の出ない俺に代わって美希は俺の手を離すと、後ろ向きになって浴衣を両肩から外した。白い小さな背中に両手を回して薄いピンク色のブラジャーの留め金を外す。その仕草を俺はただ見とれる。美希が俺の正面に向き直った。美希の瞳に俺の心は射貫かれたのだろうか、不思議とドキドキしない。
美希の瞳が俺の目を離さない。俺の両手をつかんだ。始めて俺はドキドキしだした。いつも想像していた胸より美希の胸は形良く大きかった。白く綺麗だ。美希がするままに美希の胸に初めて触れた。固かった。弾力がある。肌の温もりを感じる。乳首が手のひらの中で膨らみを益すのを感じた。美希。声を出そうとしても俺は声にならない。
「この辺り」。
右胸のしこりが有ると言われた箇所に美希の右手が俺の左手を強く押しつけた。手の平に固いゴロッとした感触が伝わる。
「美希」。
俺は今度は声にすると、肩を強く抱き寄せた。両手で美希の肩を抱き寄せるとただただ美希の口を吸った。涙が出てきた。止まらなかった。美希と一緒に泣いた。
十
七月十二日木曜日。面会は丸一日禁止。術後の感染症が怖いし安静が必要と言うことだった。面会謝絶ってこういうことなんだ。俺は勿論初めての経験だ。手術は無事に終わった。一階の待合室に居た小父さんと小母さんに、そう教えて貰った。
二人も手術が終わった後ほんの少しの間だけ病室に居るのを許されたという。小母さんの手にしていた風呂敷包みの端に朝顔模様の浴衣が見える。病院の浴衣よりもと思って持ってきたらしい。持ってきたけど美希の病室に置いてくるのを忘れるほど緊張していたらしい。
二人はこれから家に帰るという。俺は手術が気になって授業中全く落ち着かなかった。授業が終わってすぐ来た。けど面会謝絶は想定していなかった。それだけに美希の経過を聞けただけでも良かった。小父さん達が自家用車で帰ると言うので、病院の玄関口まで見送りに出た。俺はもう少し休んでから帰りますと言った。広い待合室には他に誰も居なくなった。
今日一日のことが思い出された。授業が始まる前のガイダンスの時間に岩城先生から美希が一週間学校を休むとクラス仲間に知らされた。手術のため入院した、ご家族からお見舞いをご遠慮願いたいと要請があったので控えること。元気で登校する日まで待ちましょう、と言った。梨花が、すかさず何処の病院に入院したのかと聞いた。町民病院だと応えがあったが、それ以上の質問には応えがなかった。
ガイダンスが終わるとすぐに梨花と京子が俺を取り囲んだ。手術って何、美希ちゃんどうしたの。及川君が知らないはずないよね。立て続けの言葉だった。俺も応えるはずがない。
お昼の休憩時間にも、美希は何処を手術したか知らない?、退院してもよさこいソーランをすぐに踊れないよね。練習に参加するのは無理だよね。踊るポジションを替えなきゃと梨花がわざわざ俺の所に来て言った。入院した原因を探る目的だった。
そして、家族がお見舞いを遠慮してくれって言ったと先生言っていたけど、及川君は行くよね、と断言した。俺だって、今、会いたくても会えない。我慢が必要なのだ。