(サイカチ物語・第二章・葛西一族の滅亡・44)

 

「いつ免許取ったの?」。

 熊谷君の質問だ。

一昨日(おととい)、取ったばかり」。

「あっ、それで休んだんだ」。

「ズルかよ」。

 及川君の言葉だ。聞いていた先生は最初含み笑いをしたけど、声をだして笑いだした。そして、聞いてきた。

「ズル休みがバレたか。で、免許取る急ぐ用事でもあったの?」

「いえ、特に急ぐ用事はありません。でも、ゴールデンウイークに二人の後ろに乗せて貰って、風を切るその爽快さとあの海の    青々と広がる景色を見たとき絶対免許取ろう、知らない土地や町を自分で訪ねてみようって、そう思ったら、すぐに免許取ろうって思ったんです」。

「お父さん、お母さんは?」。

 奥様の質問になった。

「勿論反対ありました。けど、何とか説得しました。取った免許証で熊谷君のヤマハのセローにも乗れます。だけど父から高速 道路を走行できるもの、二人乗り車はダメって条件が出されていて、暫くはカブにします。父の許可は渋々だったけど、酒屋の娘だもの商品配達用に娘の協力も必要有りとみたようです。

 本当は今日、胆沢(いざわ)の県南免許センターに行く予定だったんです。だけど、バスと電車の時刻表から土日祝日では一日で用件が済まないことが分ったんです。平日でないと夕方に一関からこの藤沢に帰ってくるバスの便がないんです」。

「土日のここに来る一関発の最終バスは確か午後一時半頃だったね。恐ろしく早い。午前に一本、午後に一本の一日二便しかないからね」。

 先生の言葉がズル休みをフォローする形になった。

「免許取り立てだと、乗りたくて乗りたくてしょうがないだろう」。

 及川君が言う。

「そう、美希ちゃん、カブの先輩だから色々話してみようと思っていたんだけどね、今日は残念でーす」。

 熊谷君が、また海鮮風のを焼きだした。三枚目になる。

「美希さんって方、本当に大丈夫なの?」。

 奥様が誰に聞くともなくお好み焼きのプレートの方を見ながら言う。及川君が応えた。「今日、学校の駐輪場まで一緒だったんです。顔色が良くなかったけど動きは普段と変わりなかったです、大丈夫ですよ」。

「俺も、そう余り変わって見えなかったけどね」。

 熊谷君が追従した。

「診察の待ち時間が長くなって、思ったより時間がかかってしまったということだと思います」。

 及川君が言うと、奥様が軽く頷きながら、おにぎり要る?。その体だとお好み焼きでは足りないかもね?と言う。

「いや、要りません。その代わり出来上がったお好み焼き、全部食べます」。

 小さな笑いが皆に漏れた。及川君も三枚目を焼きだした。二種類を交互に焼きだしたから今度は丸形に出来上がっている。返し金の使い方に二人とも慣れてきたみたいだ。

 二種類とも三枚目を焼いてもまだボールの中に具が大部残っている。ゆっくり食べましょうと奥様。オニオンスープは美味しかった。バター味に粉チーズが少し入っていた。塩と胡椒の味加減も良い。

「スープのお代わりあるわよ」。

 奥様の声かけに、いただきますと及川君。熊谷君は?。と私が声を掛けた。うん、俺もと続き、私が二人のカップを持ってキッチンに立った。

 席に戻ると、野球の話になっていた。

「もう無理です」。

 及川君の言葉が最初に耳に入ってきた。

「去年の秋の新人戦に出た九人で今回も何とかなるかと思っていたら、柔道部の金野が右足膝の靱帯損傷で協力出来ないし、代わりが居ない。県高野連に部員名簿を提出できず、その時点で地区大会参加がアウトです。本当に残念だけど・・仕方ない」。

「六月初めの職員会議で野球部担当の細川先生からその報告があった。柔道部はそれで自分達の地区大会参加も(あきら)めた。卓球部は 地区大会に参加する。あとは陸上部の佐藤君だね」。

 先生のお話を聞いて及川君が、期待できるのは佐藤だけだ。彼奴(あいつ)に学校を代表して頑張って欲しいと言う。クラスの佐藤浩君は去年、五千メートルと一万メートル競争でインターハイまで行っている。

「合唱部は?」。

 熊谷君が手を休めずお好み焼きの焼き加減を見ながらに聞いてきた。

「大会参加無し。中学までは毎年参加していたけど高校になって参加していないもん。生徒の絶対数がある程度ないと課題になっている混声四部とか女声四部の合唱なんて体制を組むこと自体が難しい。だから岩手県の高校の大会参加って五、六校しか無いの。私達も参加出来ないけど、それでも好きな人達が集まって練習している。

 今年のNコン(NHKコンクール)の課題曲は「言葉にすれば」という曲で、とてもいい曲よ。ノリノリになれる曲よ。曲のテーマが「つながる」となっていてポップスと合唱が一体になった作り。歌うチームの個性や特徴が凄く出るんじゃないかな。本当は中学生の時みたいに参加したいけどね。皆、そう思っている」。

「あらあら、どれもこれも最後はなんか淋しいオチになるわね」。

 言葉とは裏腹に、笑顔を見せながらの奥様の言葉だ。

「済みません」。

思わず私は頭を下げた。

「貴方、何か面白い話ってないの?」