(サイカチ物語・第二章・葛西一族の滅亡・8)

 

   六月も末に近いのに今年は空梅雨になるのかしら、雨の日が少ない。周りは農業に従事する人が多く酒屋を営む私の家には関係ないといっても農作物への影響を感じていた。

   ところが一昨日金曜日にまとまって恵みの雨が降った。昨日は自動車教習所の検定コースの路面の窪みに水たまりが出来ていた。風も強かった。昨日の失敗を一昨日の雨と昨日まで残った風のせいにはしたくないが、坂道発進で強い横風を気にしたことは確かだ。よろめいて後ずさりし大きな減点と評価された。また委細構わず水たまりの雨水を吹き飛ばして時速四十キロもの走行はダメ。傍に歩行者が居たらどうなる、短距離で停止する急制動ももう一つ足りないと指摘され、一般道に出るためにはもう一度挑戦するようにと指示された。

   土日、祝日だけのバイクの実技講習受講で、もう一ヶ月半になる。今日こそ卒業検定を合格し、早く熊谷君にも及川君にも私より先にスーパーカブに乗る美希ちゃんにも梨花ちゃんにも免許を取ったよと報告したかった。

   今日は風も止み、路面も乾き二日続きで夏日になるらしい。今日こそ合格したいと緊張感を感じている。卒業検定を受ける人だけが集められ、午前九時四十分から受験生が五分間隔でスタートしていく。私は五番目だ。

   順番が来るまでは胸がドキドキしたけど、最初の一本道の直進狭路の検定コースに入ると緊張感は消えた。坂道発進も昨日のようなことはない。また四.五メートル間隔に置かれた五本のパイロンを縫うように通過するスラロームも、急制動も昨日よりはるかに余裕を感じて上手くクリア出来た。二度目のチャレンジで前日の学習効果を感じた。

   結果発表は午後になる。自動販売機で午後の紅茶を買うと、あてがわれている二階の空き教室で早めの昼食を取ることにした。緊張感が取れたせいか母の手作り弁当が普段より美味しい。いつも心配そうな顔をして送り出す母の顔を、ふと思い浮かべた。

   午後一時半からの合格発表を待つドキドキは高校入試の発表とまた違ったドキドキだ。でも受験順番が早かったから私の番号も名前も読み上げられるのが早かった。後に呼ばれる合格者の番号と名前は嬉しくて、もう耳に入らなかった。

   受験者全ての結果発表が終わると合格者だけが教室に残され、免許試験の日程や会場、免許申請に必要なもの、費用等について説明があった。胆沢(いさわ)の県南免許センターに行くにも釜石(かまいし)免許センターに行くにも、どちらを選んでも一日がかりで出かけるようになる。今度の土曜日か月が変わる日曜日に適正試験も学科試験も受けて免許交付を申請しよう。

                四

   久しぶりに新聞部の部活のために残った。机を前に何か話していた二人に声をかけた。「勉強の方は順調?」。

熊谷君にとっても及川君にとっても今年は受験対策が最大のテーマだ。アンケート調査の回答提出期限の六月三十日まで未だ三日あるけど、回答状況が気になっていた。三人の誰に提出しても良い。任意提出としたけど、私達三人が普通科に所属していて、途中、農業科の生徒が提出しにくいのではと熊谷君の心配もあった。しかし、自分で考えるだろうとその通りに実行した。

「俺の所に十四人から集まっている」。

「俺の所に九人」。

   及川君が最初に言うと、熊谷君が続いた。私の所に提出したのは十五人だ。

「私の所に十五」。

「三十八人になるね。全員回答してくれたんだ。心配していたけど提出することに異議を言う仲間が居なかったことになる」。

   計算速い熊谷君の言葉に私もホッとした。岩城先生のアドバイスから調査依頼書の下三分の一のところに切り取り線を入れ二十のマス目を設けて配布した。それでも自分の思うペーパーで回答している者もいた。けど、まずは全員の提出にホッとした。

   三人で一つ一つを回し読みして点検することにした。女生徒からの回答は定めた用紙で提出されているのが殆どだったけど、カラフルな用紙に熊谷君か及川君へのラブレターまがいの物もあった。男子生徒は半分が定めた用紙で、外にレポート用紙もあれば本当に紙切れにという物もあった。

  女子の一人と男子二人が「将来は分りません」と書いてある。外に女子一人が「まだ見つかっていません」、男子二人が「未定」、もう一人の男子は「なるようになるさ、将来は無限大」と書いてある。