(サイカチ物語・第二章・葛西一族の滅亡・4)
二
この間はありがとう。部員が三人しかいない新聞部の部活で教室に三人が残るのは久しぶりだ。熊谷君と及川君に改めてお礼を言った。同じ教室でいつも顔を合わせている二人だからいつでもお礼を言える側に居たけど、他の女子生徒の手前、三人で気仙沼に行ってきたことも、二人のバイクの後ろに乗せて貰ったことも口にしていない。それを知ったら梨花ちゃんも美希ちゃんも何を言い出すか分らない。オートバイの後ろから熊谷君のお腹に手を回したのかとか、及川君の腰にしがみついたのかとか、きっとうるさいだろう。クラスで人気のある進学予定の成績優秀な男子二人を一日独占したのだから私には優越感がある。事実を知ったら、梨花ちゃんも美希ちゃんも、きっと妬くかなとか、怒るだろうなとか思う。
私と梨花ちゃんと美希ちゃんは小学校も中学校も一緒。今も、クラスも合唱部でも一緒だ。今度は、新設のよさこいソーラン部でも一緒になる。仲の良い私達だから、つまらないところで余計に気を遣うこともある。
私と梨花ちゃんは家が町中にあるから小学校も中学校も歩いて通った。美希ちゃんは及川君と街から約十二、三キロ離れた同じ大籠地区からスクールバスで小学校、中学校に通ってきた。今この町に中学校は一校、小学校が二校ある。二十数年前までは中学校が五校、小学校が六校あったという。小学校の分校も四校あったと父母に聞いたことがあるけど、その時を私は知らない。そして、少子化の波に迫られて私達の通う岩手県立藤沢高校は、来年三月、平成十九年度生を最後に廃校になる。生徒は普通科二十三名、農業科十五名の私達三学年しか居ない。
家のある地区が同じなせいか、美希ちゃんと及川君とはとても仲が良い。及川君がどう思っているのか分らないけど、美希ちゃんが及川君を好きなのは私も梨花ちゃんも知っている。高校生になった今は、美希ちゃんはスーパーカブに乗っていつも及川君のPCXの後を追って一緒に登校してくる。これからは美希ちゃんと、もっと話し合う機会が多くなるかもしれない。カブが私と美希ちゃんの間をそうさせる予感がする。春休みに免許を取った梨花ちゃんと、また三人で同じ話題に花が咲きそうだ。
原則週一、水曜日新聞部部活と決めていたけど、その日に集まるかどうかは休み時間やお昼時間に三人で連絡し合っていた。大型連休が明けた最初の水曜日、今日集まることにしたのは早めに生徒仲間達に将来の夢、目標を語って貰うためだ。早く回答を得て原稿を事務室に渡せば自分達の受験勉強により影響が少なくて済む。
藤高新聞と名の付く学校新聞の最終号の編集・発行は事務室が行うことになった。最終号が五十九年間の学校の歩みを主とする学校史に近いこと、編集作業の主要な日程と受験勉強の追い込みの時期が重なることを考慮して部活担当の岩城先生が校長や事務室長等と話あって呉れた結果だった。
全生徒を対象にアンケート調査をするという考えは、今まで通りである。検討事項は、調査するにしても藤高新聞に掲載するためという了解をどのようにしてとるか、回答様式をどのようにするか、提出期限を何時までにするかだった。
小一時間三人で話し合って、新聞に掲載するのは縦二・五センチ、横二センチの生徒各自の顔写真、その下に横一行書きに氏名、写真の左横に将来の夢、目標とイメージした。その上で、調査依頼書には藤高新聞に掲載することの主意文と、提出留意事項として回答用紙は白紙を使ってもレポート用紙でも良く自由、自分の将来の夢、目標を二十字以内にまとめること、目標とする職業を書いても良い。提出は随時で新聞部の三人、及川俊明、熊谷準、千葉京子の誰かに任意提出。提出期限は六月三十日。必ず自分の名前を記名することと書くことにした。
またその依頼書の末尾に、登載させたくない人は要相談と加えることにした。全員が回答してくれれば問題ないが、回答を拒否する人にどのように協力を求めるかも検討しておく必要がある。
新聞のスペースの関係から夢、目標を書くのに二十字は多すぎないかという熊谷君の意見もあったけど、医者とか、看護師、介護福祉士、自動車整備士、プログラマーとか全員が将来成りたい、あるいは就きたい職業を短い語句で書けるとは限らないので、夢、目標を二十字内で語ることも良いことにした。調査依頼書を配布する前に生徒三十八人分の掲載スペースについて事務室と調整してみようと三人で決めた。