(サイカチ物語・第二章・葛西一族の滅亡・3)

 

 自動車教習所では、こんなに並んでいるとは思わなかったというのが最初の感想だ。しかも受付に同世代の男女が大半だ。五月四日なら空いているかもと考えたのが甘かった。

 女性職員の次の方どうぞという声に応えて窓口に出た。二輪の免許を取りたいことを伝えると、住民票を持ってきているかと聞き、身分を証明する物と言うことで保険証と学生証を提示した。列に並ぶ前に渡され必要事項を記入しておくよう指示されていた入所申込書を受理されると、教科の説明と教習料金の説明があった。 

 それから普通自動車の免許証を持っていますかと聞かれ、有りませんと応えた。乗る予定の二輪はありますかと聞かれてスーパーカブと言うと、小型二輪と普通二輪コースで教習予定料金が違うけど如何(どう)しますかと聞かれた。同時に示された料金表一覧を見ると技能講習時限数に七時間の差があって、掛かる経費が約二万円違っていた。

 カブに乗るのには安い方の小型二輪コースで足りる。しかし、「小型二輪(125ccまで)」の表示を見て、私は普通二輪でお願いしますと言った。熊谷君の250cc、及川君の150ccがふと頭に浮かんだ。すると女性職員は、今度はマニュアル車にしますか、オートマにしますかと聞いてきた。良く分らなかったが、マニュアルでお願いしますと咄嗟に答えた。気仙沼に行ったときに熊谷君と及川君がオートバイを前にして、やっぱりマニュアルだよなと話していた顔と声を思い出していた。

 車の免許証を取るのは勿論初めてなので技能教習時限数が十九時限、学科教習時限数は二十六時限必要だった。学生割引が五千円あったけど掛かる最初の経費は予定の十五万円を超えていた。その他に、この十九時限を超えて実技運転の技能教習が必要な場合、一時限毎に三千円かかるシステムだ。高校生の私には高いと思ったが仕方ない。オートバイを買う予算の方に余りが出たので助かる。

 学科は開かれている教室を任意に廻って受講し、受講済み印を獲得していくやり方だ。時間調整が自分で出来るが、技能教習の方の受講には予約が必要だった。しかも一日最大二時限しか運転の練習は出来ないという。予約の空きがなければ一日一時限の受講になることもあるという。教習所に通うのが土日しかないことを考えると今月中に技能教習を終えるのは難しいことが分った。梨花ちゃんに春休みを利用して二輪の免許証を取ったと聞いていたけどその理由が解った気がした。私の意気込みを少しトーンダウンされた気持ちになったが、仕方ない。今日は一時限の技能教習を受ける予約をした。

 その後、職員の指示に従って視力と色彩識別、聴力、運動能力の検査を受けた。全ての入所手続きを終えると腕時計は午前十時を少し回っていた。

 十一時四十分からの技能教習まで時間が空いた。インターネットで調べてはいたけど、受付窓口に戻って横の壁に貼られてあるバス時刻表を確認した。帰りの藤沢町を通る花泉行のバスは、千厩バスターミナルからの最終が土日祝日運行スケジュールで午後四時四十三分と早い。平日は午後六時二十八分まで有ることも手帳に記録した。午後には取れる学科を幾つか受講して帰ろうと心に決めた。熊谷君にも及川君にもカブを買ったこと、自動車教習所に通うことは内緒だ。