(サイカチ物語・第一章・ルーツ・31)
話を振られた及川君だ。
「俺は今年は新聞部だけになるかも。野球部ったって、部員が五人しか居ないしキャッチボールと三角ベースじゃ、どうにもなんないす。体力維持のためにランニングとバットを振り回しているようなものです」。
「熊谷君、テニス部は?」。
「ええ、やってます。でも部員四人で一人欠けるとダブルス対抗戦が出来ません。二対一の変則乱打だけの練習になったりします。時々、教頭先生が入ると対抗戦します」。
「今、部活で一番目立っているのは陸上部の佐藤じゃないかなア、陸上部ったってえ一人で走るだけだけど、俺達野球部がキャッチボールしている回りを佐藤が今年もインターハイ目指して黙々とグランドを走っている。タイム設定を自分でして五キロを何分何秒以内とか、聞くと自己管理が凄いですよ、彼は」。
「工藤先生喜ぶね。体育の先生も今年は千厩高校と兼務の話が出たけど工藤先生残って良かったね。陸上部はもう一人、女性の伊藤さんがいたね。彼女も確か徒競走?」。
「ええ、百メートル走で練習しているけど、彼女は佐藤目当てですよ」。
及川君の答えが出ると、妻が千葉さんを誘ってキッチンに立った。
皮をむいたリンゴが載る大皿を、デザートだと言いながら千葉さんがテーブルに置く。「地元(産)の富士。飲み物を何にする?」。
キッチンから妻が聞く。
「牛乳有りますか?」。
及川君の声が大きい。
「あるわよ。他の人は?」。
熊谷君が呆れた顔をして及川君の顔を見てから、お茶でお願いしますと言い、及川君以外はお茶になった。
「明日、本当に気仙沼に行くの?」。
「行く、行く。千葉さんも来る?」
聞かれた熊谷君よりも横から及川君の声が先になった。どうやら熊谷君が気仙沼の熊谷姓の由来にはまっているとか言いながら、二人で行く計画になっているらしい。
私は、闇雲に歩くと草臥れるだけ、まずは歩くところの県地図、市町村地図を入手することが一番。本屋さんで売っているものでもいいし、行った先の駅前とかバス停近くにある市町村の観光案内所のPR紙などでいいから、行きたいところの地図を入手する。高速道路だとサービスエリアに置いてある道路マップが意外と役立つ。それから、効率よく廻るために行くところの場所、住所を書き出す。交通事情がどうか、バスとか電車の繋がる時間がどうか、それらを予め調べ準備しておくのが肝心。方角を知るための磁石、手帳等記録帳、筆記用具、カメラ、勿論その他に帽子や雨具、水分、ホッカイロなど自己保身のためのものなど、とここ数年の自分が行動するときの必須アイテムを口頭で並べた。
熊谷君が気仙沼市地図を入手していると言い、行く予定のところに赤岩館跡や赤岩館跡の氏神を祭る平八幡神社、小屋館城址などを挙げた。
「小屋館城址は良いね。気仙沼線で二駅、松岩駅近くだね。小じんまりしているけど城址に歴史感が有る。正面に大島、左に唐桑半島が見える。
また、安波山に登ってみるのも良い。町裏ってあるから近いのかと思ったら気仙沼駅からちょっと距離があった。駅から歩くと往復一時間半かかるかな。気仙沼湾と市街地を一望できる。安波山は航海の安全と大漁を祈願する場所だった。古来の風水思想で山波を竜の背中、竜脈と言うことにちなんで竜をイメージした公園になっている。途中の山道に「日の出のテラス」とか「星のテラス」とか仕掛けが施されている。
小野寺姓の多い鹿折地区は気仙沼駅から一駅の鹿折唐桑駅から気仙沼港に広がる地域だ。気をつけて行って来るといい」。
私の話が終わると途端に妻が口を挟んだ。
「あなた達勉強しなくていいの?、大丈夫」。
「はい、受験勉強は然り、これも歴史の勉強です」。