(サイカチ物語・第一章・ルーツ・30)
「私は仙台、伊達藩よ。青葉区の広瀬川が近くに流れるところで育ったの」。
「岩手じゃ無いんだ」。
「あら、岩手じゃ無いとダメなの、仲間外れかしら」。
「イヤ、そんなことありません」。
頬を赤く染めて、慌てる熊谷君の素振りに皆が笑った。
その後、食べながら、あと一年ねとか、後輩がいないっていうのも淋しいとか、誰が何処を受験しようとしているとか、誰々は就職の予定だとか色々話が出た。そしてその後、よさこいソーランの踊りに話題が移った。
「部活相当扱いって、よくわかんないけど私も参加してみました。梨花ちゃん、高橋梨花さんですけど行動派らしく、昨日の今日って感じで、急告!よさこいソーラン部員募集。興味のある方、明日金曜日、講堂に午後三時四十五分集合ってビラ、農業科教室にも普通科教室にも貼り出したんです。
合唱部の練習より力が入りそう。だって昨日初めてだったんですけど、二十人近く集まったんですよ。生徒のほぼ半数の人が、毎週金曜日に講堂で踊るって、もしそうなったら一体感が相当出ていいですよ。意外に男子が多かったです」。
「それって、参加する目的が違っているんだよ」。
及川君が混ぜっ返した。
「同じ講堂で柔道部に卓球部、そこへ割って入る形だからトラブラなかった?」。
私が間に口を入れた。
「ええ卓球部から文句が出ました。柔道部は畳を敷いているスペースで場所は決まっていますけど、卓球部は、どうして私達のスペースを侵すんだって。卓球する人の動きを改めてみましたけど、意外とスペースが必要なんですね。ピンポン玉追って右に左に、そして卓球台からかなり下がって打ってとスペースが要るスポーツなんだって改めて分りました。
でも何とか卓球部の部長の熊谷さんとソーラン部の代表に決まった梨花ちゃん以下皆で話し合って場所の調整はつきました。演壇、ステージに一番近い方にソーラン部。講堂の真ん中が卓球部で卓球台の向きを変えました。選手はステージではなく、東西の窓と窓を背にするようにしました。柔道部は今までどおり一番奥で東窓側の角です」。
「音がうるさいとか言わないかな?」。
「言いますねー。試しに梨花ちゃんがCDで音を流したんですけど、卓球部から練習に集中できないとすぐクレームがつきました。ボリュームを調整して何とか仲良くしていくしかないですね。
それより心配なんです。初日なので生徒の中には冷やかしで集まった人もいたかもしれません。意外と個人負担が大きいので正式に参加を申し込む人が何人になるのか。梨花ちゃんの説明だと・・・」。
指を折りまがら千葉さんはが言う。
「半天に半天帯、Tシャツ、パンツ、リストバンド、地下足袋、ハチマキ、それに鳴子が個人負担で一人当たり約二万円かかると言うんです。大旗とポールの購入は部活助成金でという説明でした。梨花ちゃんとその仲間の愛ちゃん佐々木愛さん、美希ちゃん、佐藤美希さんが衣装のデザインや鳴子をどういう物にするか、次回ゴールデンウイークが終わった五月十一日の金曜日に提案すると言うことで、今回参加した人達に説明しました」。
「担当することになった工藤先生ともよく相談した方がいいね」。
「だと思います。梨花ちゃんもそうしていると思います」。
「柔道部は?」。
「いつも厳しい金野先生が側に居なかったせいもありますけど、彼らは一時傍に来て、誰も踊っていないのにCDに合わせて柔道着のまま勝手な手振りの踊りで皆を笑わせ、楽しんでいました」。
妻も私と同じ光景を想像したらしく笑い声が出た。
「熊谷君も参加してみたの?」。
「いや参加していません。及川も参加していないよな」。