(サイカチ物語・第一章・ルーツ・18)

 

「先生、俺達今日来たのは三月に来た時の先生のこの町周辺の話と俺達のルーツ、葛西清重が凄く気になったから、葛西一族をもっと知りたくなったからなんです。

   熊谷と二人でインターネットで知った葛西一族物語とか奥州千葉一族からもっと興味が沸いてきたんです。この間の部活の後、熊谷の家で三人で話し合ったんです。千葉さんも奥州千葉一族の話に興味が大ありです。時間を見つけて郷土の歴史的なことを調べる、現地を歩いてみたいと三人の意見が一致したからなんです」。

「君達は今年は受験が控えている。君達が一番に取り組むべき事は受験対策だ、時間的余裕はないだろう。進路が決まった来年以降でも郷土の歴史を調べることは出来る。この町を離れても、帰ってきた時々に調べることも出来るよ」。

私は、及川君も熊谷君も藤高新聞の取り扱いに反対も不満も不服も言わなかったのは、このせいかなと一瞬思った。熊谷君が及川君の後を続けた。

「俺達受験勉強はやります。頑張らねばと思っています。でも今はインターネットでかなりの事を事前に調べられるので、知識を入れておいて関係する史跡を息抜き兼ねて効率よく廻ろうと思っています。先生には俺らがインターネットで調べる材料となるこの町に関わる歴史的なこと、出来事とか、何を調べたら歴史が裏付けされるか、そんなアドバイスがいただけたらと思ってお願いに来たのです」。

   今の子供達だなと思った。聞くと、三人ともパソコンを持っているという。誰かがキッカケを与えれば過去の歴史を探るどころか世界の今起きていることも宇宙の探検もその取り組みもインターネットで調べ、リアルタイムで知ることが出来る。私は今更ながらに子供達を取り巻く環境の変化を思った。

   三人が郷土に関心を抱いてくれたのは私にとって嬉しいことだが、受験勉強を指導する者の立場からみたら彼らの時間的ロスになる。

「約束してくれるかな。まず受験対策第一に考え取り組むこと。知りたいこと、調べたいことは口頭でもペーパーでも良いから私に言うこと。君らが知りたい、調べたいことを私が代わってする。つまり私を使うこと。現地に行ってみたい、歩きたいということだが、もし訪ねるとしたらその行先を絞り込むこと。それで君らの歴史を紐解く時間の負担を少なくする。大学生等になって時間が出来たら改めてこの町を、郷土を知れば良い、調べれば良い」。

  三人とも異論は無かった。及川君と千葉さんが声に出して「はい」と言い、熊谷君は首を縦に頷いた。

「誰もが苗字をもつようになったのは明治四年制定で翌年二月から実施された戸籍法にある。近代国家の体制を欧米並みに整えないと世界に対抗出来ない。国をまとめ強くしていくために戸籍法を制定し、徴兵と租税徴収を確実にしていく必要があった。及川君も熊谷君もよく調べたね。

   でも、それも私に聞けば調べなくても解った。自分達の時間を掛けなくても良かったかもしれないね。そういうところで私を使っていいんだよ」。

   二人は黙ったまま頷いた。その後、熊谷君が言うには、私の家に来た日の後の春休みのある一日、熊谷君の家で及川君と二人でインターネットで調べたのだという。吾妻鏡に書かれている奥州合戦とそこに出陣した御家人を調べ、自分達同級生に見られる苗字と一致する氏姓の人物について、奥州合戦、所領、移住の三つをキーワードにして自分達の苗字のルーツを探ったという。

また葛西一族の滅亡は、葛西晴信、滅亡をキーワードにしたという。熊谷君が言った。

「葛西一族とか、奥州千葉一族とか、熊谷党とか、伊達政宗とか、立ち上げられているブログの多いのに驚きました。自分達が無関心だっただけで、歴史上の人物名を入れるだけで今まで知らなかったことを、かなり知ることが出来ると分りました。自分の故郷を知る。自分の町の歴史を知る。その面白味を知ることが出来ました」。

   私は、鎌倉幕府と関係する苗字のルーツの問題と、葛西一族の滅亡との間には約四百年の時の開きがあると念を押して、自分が採った苗字のルーツの探り方について話すことにした。