「七、八年前だべ(だったろう)、初めで来たどぎは俺も少す(し)驚いだ。共同の炊事場もトイレも良ぐ手が入っていで綺麗だったす(し)、何より旅館の方に泊まろうが湯治場の方に泊んべ(ろう)が湯船は一緒だったべ。広くて大ぎぐで裸になっ(る)ど誰がどうだが何て関係無ャ(無い)。それが良え(良い)んだ。湯治場のイメーズ(ジ)が俺も確かに変わった」。
「三人はマスク外す(し)たらどうだべ。暑くねャあが?(暑くないか?)」。
畠山さんの言葉に三人は従った。畠山さんの側のご婦人だ。
「残念でした。マスク美人で的が外れたでしょう?」。
そんなこと考えもしていなかったけど、思わず皆に笑いが生じた。既にビールを口にす(し)ていだ俺の側の手前のご婦人だ。
「私達が岩手一号のコロナ患者になったら、他県移動の制限が解除されているのに何で岩手に来たって地元の人に袋叩きに会う、きっとマスコミに大きく騒がれるわね。埼玉に帰れなくなる。家族に帰って来るなと言われるかもしれない。そう話し合ってずっとマスクをしていようと決めていたの。来るときの新幹線はガラガラ。何人乗れるのか分からないけど自由席の一車両に私達を入れて七、八人でしたよ。それでも乗ってる人皆さんマスクをしていました」。
「何、ここでは、マスク無す(し)でも良いべ(良いでしょう)。折角遠ぐがら来たんだがら余り気を遣わずゆっくりす(し)てけろ(して下さい)」。
畠山さんが言う。それに答えたのが畠山さんに文学少女と言われたご婦人だった。
「有難うございます。皆さんマスクをしていないんですね」。
「まあ、表に出るときは普通にマスクを着げでっ(つけている)けど、家の中ではす(し)ていないべ(していないでしょう)。ここは俺達にとって自分の家みたいなもんだ。アベノマスクも貰ったけど、二枚だけ貰ったって、す(し)かもちっこく(小さく)て表を歩ぐには何の役にも立たねャべ(役に立たないでしょう)」
「私達の所にも届いたけど、小さくて誰も使っていませんね。顎がはみ出るし、鼻の横が空いてスウスウしてマスクの役割を果たさないって評判悪いですね。小学生の孫が学校給食の時のマスクみたいだって言ってましたよ。」
「無駄な金遣いだべ。そったな(そんな)ごどに四百何十億の税金金使うならPCR検査だがっつうの?、あの検査を早ぐ誰でも何時でも何処でも皆がただ(
無料)で受げられる方に使って欲す(し)い。コロナが疑われる人の陽性が陰性がを区別すん(る)のがまず最初だべ。
オーストラリアだがどっかの国が感染者のための施設を造って陰性になるまで隔離するってテレビで言ってたべ(でしょう)。俺はそれに賛成だ。施設を造るが空ぎホテルを借り上げで陽性者を必ず隔離する。専門家の言う二週間で患者の容態が分がると言うんだがら二週間を目安にす(し)た方が良いべ(でしょう)。
症状が出でいない、軽症者だがらど言って自宅療養だなんて言わねャ(ない)で、陰性になるまで隔離する、そのために金を使って欲す(し)いね。家族に感染者が出で家庭内感染防止何て言う方が可笑す(し)い。家族皆が同ず(じ)洗面所、トイレ、お風呂を使うんだよ。素人の家族の誰が感染を防止できんだべ。可笑す(し)い話すだべ(でしょう)。
自宅療養だ、無症状の人に表に出るなど言ったって、誰がそれを監視すていんだ(してるんだ)。誰が表に出るのを止められてんだ(止めているのだ)。無症状の人には感染力が無ャ(無い)ど言うん(の)なら分がるけどそうでねャ(ない)んだ。感染源が平気で街を歩いてっ(る)ごどになん(るん)だ。隣にいるがも知んねャ(知れない)。今のまま行ったら必ず感染は拡大すっぺ(するでしょう)。
家族感染す(し)た人も市中感染とがいう感染経路が分がらねャ(ない)コロナ患者も一杯出てくんべ(出て来るでしょう)。こんな田舎に住んでいでも歳取っていでもテレビ見で新聞を読んでいるどこのぐれャ(このくらい)のごどは分かる。
そうそう、俺の意見が当だっていっ(る)かどうが分がんねャ(分からない)げども、どうす(し)ても言っておぎだいごどがある。もっとも貴方達が悪いわけではねャ(ない)。特定給付金(特別定額給付金)、一人十万円を貰ったべが」。
そう言うど畠山さんは缶ビールを一口グイとやった。俺の側の手前に居たご婦人が会わせるようにビールをグイとやると空になったらす(し)い、右手に振って音を確かめでいる。
「こちらに出かける前に書類が役所から届きました。主人と一緒に確認しながら書いて投函したばかりです。書類の審査確認に時間が掛かるとかで口座に振り込むときは通知するとありましたね。まだ貰っていません」。