三 夜話 ニ
売店前の待合には誰も居ながった。音を低くす(し)た大型テレビの明かりだけが窓際の奥に目立った。画面がパッパッと変わる。
缶ビールを片手に目の前の大きな丸テーブルの方をパスす(し)て窓際の小せャ(小さい)四角いテーブルの方に座るごどにす(し)た。柔らかい一人用の背かげ椅子が四つある。待合の配置は以前に来た時ど変わんねャ(変わらない)など思いながら座った。正面に座った由利さんの後ろの方に神棚の側面が見えだ。
少す(し)遅れで来た畠山さんは白いビニール袋を手にす(し)ていだ。由利さんの隣に座るど、つまみになるべ(なるでしょう)と言いながら一枚ごどに包装されだ笹かまぼご三つど柿の種の袋ど三角の形をす(し)た固形チーズ三個をテーブルの上に広げだ。畠山さんの気配りだ。乾杯す(し)ようと言った。プルを引っ張るとプシュッと良い音がす(し)た。乾杯の声が三人一緒だった。一口飲んで、ありがとうと由利さんの言葉だ。
畠山さんが、こんなごど聞いで良え(良い)がなど言いながら遠慮なす(し)に聞いだ。
「由利さん、なんぼに何べ(何歳になる?)」。
「おしょすいな(恥ずかしいな)、七十三(歳)になんべ(なる)」。
「何も恥ずがす(し)いごどねャ(ない)。熟年離婚って聞ぐげど、熟年結婚だってあった方が良え(良い)。人生楽す(し)い方が良え(良い)んだ。誰が側で助ける人が居だ方が良え(良い)。話す(し)相手が居るだけで生ぎる張りが出るべ(出るでしょう)。息子娘さんは賛成す(し)てくれだが?」。
「その娘息子が話を勧めでくれだんだ。(くれたのだ)」。
「大す(し)たもんだ、理解があっぺ(あるね)。俺もばあ様が先に死ぬごどあったら、新す(し)い嫁っこ貰うべ。こったなごど(こういうこと)女房を前に言えねャ(言えない)げどな。それに俺の方が先に死ぬがも知んねャ(知れない)」。
畠山さんが笑いを誘った。三人で笑った。
浴衣姿の三人のご婦人が売店の中を見て歩いているのが目の端っこに入ってきた。三人ともマスクをす(し)ているげど旅館に来るどぎにタクス(シ)ーの中で一緒になったご婦人方だなと想像す(し)た。レジで会計を済ますどそのまま女将と何やら話す(し)ていだ。それから俺達の方さ(に)近づいで来て横の大きい丸テーブルに着ぐどぎ一人が、今晩はど声を掛げできた。三人がそれぞれに缶ビールを手にす(し)ていだ。畠山さんが声の方に振り返った。
「どちらからですか?」
畠山さんとは思えない、丁寧な言葉を投げだ。泊り客用の浴衣を着ていたのど声のイントネーションがら近在の町や村から来た人達ではねャ(ない)ど咄嗟に見抜いだようだ。
「埼玉です。行田市から来ました」。
一人が応ず(じ)る言葉を口にす(し)ながら三人は俺達に近い方の一人掛け椅子三つを選んで丸テーブルの前に座った。畠山さんの側に席を取ったご婦人が続げで言った。
「行田市って分かるかしら。埼玉県でも北の方。最高気温がどうのと出る、あの熊谷市の隣です。人口が約八万。利根川と荒川に挟まれた穀倉地帯で昔っから米と麦の生産が盛んなところですよ。田んぼアートが時々テレビで紹介される。それに大型の古墳群が見られるところとして有名ですよ。さきたま古墳群の公園として整備されていて特別な事ことが無い限りいつでも見られます。古代のロマンを感じる場所ですよ。私達は米作り農家なの。少しばかりの農閑期にこちらに寄せてもらいました」。
「道理で少す(し)ばがり陽に焼げでいるど思った。コロナコロナ騒ぎでも良く来たねャ(な)」
「あら、お邪魔だったかしら?」
「いやいや、よぐ来てくれます(し)た」。
少し慌てた畠山さんだ。