(移動)制限が解除されだげど客は戻って来ねャ(来ない)んだど。何時(いづ)もだどこの時期(ずぎ)、東京がらも名古屋の方がらも大阪の方からだって客が来るのに今年(ことす)は駄目だって嘆いでいだ。炊事部の湯治客(とうずきゃく)が何(なん)ぼが来てくれてん(る)のが助かん(かるん)だど。そん(れ)でも旅館全体でみれば去年の一、二割す(し)か利用されでいないんだって。がっかりす(し)た言い方(がだ)だったな。」
 由利さんが相槌(あいづつ)を打ず(つ)。
 「世の中、何が有っか(有るか)分がらねャ(ない)。突然の大きな事故(ずこ)、急な災害と同ず(じ)だもんな」。
 「土曜日は決まりだね。旦那のせっかくのご好意だがら舞台のある方を使わす(し)てもらうべ。利用する俺達(おらだづ)が少ねャ(ない)げど、何、間仕(まず)切りで場所をこず(じ)んまりど作ってくれるべ」。
言う畠山さんに、空間の割りに贅沢な設備になるねと八重樫さんの言葉だ。
 「たまには良(え)えべ(良いでしょう)。設備だけでなぐ、この際、料理も酒コも奮発すっ(る)か?」。
普段から親分肌の所(どご)を見せる畠山さんの言葉に俺(おら)も同意す(し)た。
「前沢の千葉さんにも声を掛げっ(る)か。昨日、大風呂で会ったべ(会ったでしょう)」、
 由利さんが俺(おら)に言う。畠山さんの顔を見だ(た)。
 「顔は知(す)ってる。挨拶程度す(し)か声を掛げだごどが無(ね)ャ(無い)げど、何人でも多い方がいべ」。
傍で八重樫さんも無言のまま首を縦に頷いだ。顎が湯につぐほどに身体を湯船に沈(しず)めでいる。
 四人揃って湯船を出るど、八重樫さんはこれがら打たせ湯を浴びると言う。畠山さんと由利さんは上がり湯を浴びで、お先にと言った。
洗い場に腰(こす)掛げるど、鏡を見ながら今日一日(いずにず)何回目かの湯に身体を洗う必要もないなど思いながら土曜日の夜の参加者の数を数えだ。佐々木先生ご夫婦に畠山、由利、八重樫、千葉さんに俺(おら)、七人(すずにん)がど思いながら畠山さんの言うように五千円でも一万円でも俺(おら)も出すべ、刺身(さすみ)は皆が好きだがら多ぐ有った方が良(え)え(良い)と思った。
 そこまで思って、他(ほが)に何を用意する、基本的には夕食だべ。皆が何が食べる物を持づ寄ったとす(し)てもその場にならねャ(ない)ど何があん(る)のが分がらねャ(ない)のも困るな。いづもの誰かの部屋に食べ物、酒コを持ってニ、三人集まる時(どぎ)と違(つが)うな。今回は人数が多すぎっぺ(多すぎるだろう)。俺(おら)が人数分ぐらい煮す(し)めを作(つぐ)り直すが。他は如何(どう)する。そう思うど刺身や漬物、ご飯、味噌汁(みそする)は俺達(おらだづ)が勝手に用意す(し)ても何(なん)ぼが(幾つか)の料理はやっぱす(り)旅館に頼んだ方が良(え)え(良い)。お膳の形(かだづ)だけはす(し)た方が良(え)えべ(良いだろう)ど思った。