今年(ことす)の一月末がら二月の(はず)めに息子夫婦が揃って一週間余りベトナムまで行って()だ。グエン君のご両親(りょうすん)に二人の結婚を認めでもらうためのベトナム行きだった。喜んでくれだご両親は息子夫婦と同ず(じ)(とす)ぐらいだったらす(し)いけど、グエン君の下に五人も弟妹が居だのに驚いだど言っていだ。それを聞いで(おら)は昔の日本の農家、農村の(ごど)を思い出す(し)た。田舎に残ったのは家を継いだ長男の(おら)だけだげど(おら)自身八人弟妹だ。

 先生がさっきまでこれがらの日本の農業等の有り方を話す(し)てくれだのに、外国人(がいこくずん)労働者との有り(がだ)を話す(し)てくれだのに俺はどうす(し)てあん(の)(どぎ)、孫娘の結婚相手がベトナム人だと言えなかったんだべ(言えなかったのだろう)、そう思うど酔いも冷め、頭が冴えだ。目の前のふとんの皺が妙に気になる。労使対等が当たり前だ。本当に外国人(がいこくずん)就農者を受け入れでいぐのなら人権侵害のある契約書では駄目だ。世の中、世界の人々に日本は何やってんだってごどになんべ(成るでしょう)。息子みたいな農業に従事する者や野菜栽培、果樹栽培、酪農等を営む人を対象に、また既に集約化、大型化した運営会社や公社の管理人を対象に給与、賃金、労務管理等使用者責任にかかる研修の実施(じっす)が必要だべ(だろう)。考えがそこまで行って(おら)のたいす(し)たごどのない頭は、そもそもなんで日本は少子化が止まんねャんだべ(止まらないのだろう)ど思う。

 息子夫婦がベトナムに行った(どぎ)に観光案内に同伴す(し)たマイクロバスの添乗員が日本に留学す(し)でいだ(どぎ)があるとかで、解る日本語で日本は沈みゆぐ大国(てャこぐ)、ベトナムはこれから陽の上る国、人口減の続く日本は二、三十年もす(し)たら人口が九千万人、若者の多いベトナムが今、九千万人、ニ、三十年す(し)たら今の日本の人口(ずんこう)と同ず(じ)約一億ニ、三千万人になる。経済活力はベトナムが日本を追い越すのだと自慢そうに言ったのだそうだ。それを聞いで息子はショックだったど(かだ)った。孫娘の絵里も誰でも日本人が安心す(し)て産み子育てす(し)易い環境が有ったら、そういう政策が有ったら、少子化が改善されるならそもそも外国人(がいこくずん)労働力に頼る必要はなかんべ(ないだろう)。安い労働力を期待す(し)て移民政策に頼ること自体(ずたい)、本末転倒の解決策だべ。

 眠りに就いだ時刻(ずこく)自分(ずぶん)でも分がらねャ(ない)。何時(いづ)ものごどで午前四時を過ぎだどごろで目が覚めだ。二十四時間源泉垂れ流す(し)の大風呂に行くごどにす(し)た。

                第ニ章 夜話 二               

                   一 炊事場の相談事

 朝風呂に入って戻って、部屋の空気を入れ替えだ。初夏の頃だと言っても山間のこごは空気がヒンヤリする。火照(ほで)った体に良い。深呼吸をす(し)た。空気が美味す(し)い。緑の木々の間から見える空は薄雲を引いでいるげど微かに青みがかっでいる。

 今日は良い天気になりそうだ。テレビを点けるどちょうど天気予報を伝えていだ。この(あだ)りは晴れで午後には二十六度の夏日になると予想す(し)ている。腕時計はまだ五時十五分を過ぎだばかりだ。テレビを消す(し)て掛け布団の上に横になった。これが湯治場(とうずば)の最も()え(良い)ところだ。ゆったりす(し)た気持ちで誰にも何も言われず朝の仕事(すごど)も無す(し)だ。、枕を寄せで(ぬぐ)手足(てあす)を大の()に伸ばせる。浅い眠気のままにウトウト出来るのだ。六時半(ろくずはん)七時(すつず)(ごろ)までまだ寝で()えべ(良いだろう)。朝食の用意はそれからだ。鍋ごと冷蔵庫に入れた昨夜(ゆうべ)のしゃぶしゃぶの残りど卵かけ御飯で()えべ(良いだろう)。今度起ぎだらご飯を炊こう。その時間帯(ずかんたい)は炊事場は混むがなど思いながら睡魔に気が薄れだ。