部屋に戻って窓際の椅子に腰かげで火照る身体を覚ます(し)た。時計を見るどまだ九時半だけどいづも俺の床に就ぐ時刻だ。先生と奥様はもう先に床に就いでいるべ(いるだろう)。若い時と違うがら先生は奥様の言うごどを聞いでおそらぐお風呂に入るのは諦めだべ(諦めたろう)。ばあ様が居だら俺もそう言われだべ(言われただろう)。
外は静かだ。床に就ぐど先生の話を思い出す(し)ながら孫娘の相手のごどが気になった。息子と嫁の前で絵里が結婚させて下さいど言ったのは去年の秋の収穫が終わった後だった。十月の末近がった。夕食が終わって息子夫婦と一緒にお茶を飲んでいる時だった。傍に居で俺もばあ様もびっくりす(し)た。
絵里がグエン君と一緒に居間に戻って来たがど思うど、いぎなり二人が床に正座す(し)て絵里の方から結婚させで下さいど言い出す(し)た。床に座ったグエン君は慣れない正座に不格好な仕草だったけど、顔は真剣そのもの、緊張す(し)でいだ。息子が二人ども椅子に座れど促す(し)て座らせだ。嫁が驚いだ顔をす(し)て息子の顔を見で、それがら俺の方を見だ。今でも覚えでいる。後でばあ様に俺達の部屋に戻って寝る前に聞かされだげど、絵里は母ちゃんに相談出来なくてばあ様にグエン君とのごどを先に話す(し)ていだ。
絵里はグエン君が俺家の実習生とす(し)て来た五年前がら彼を意識す(し)たらす(し)い。まだ高校二年生だった絵里は俺家に初めで来た外国人に最初はおっかなびっくりだったとばあ様に話す(し)たらす(し)い。俺達だって実習生だと言って初めて外国人を労働者とす(し)て雇ったん(の)だがら、息子夫婦も俺もばあ様も気を使って彼に接す(し)だ。少す(し)離れた目で見でいだ。
たどたどす(し)い日本語だったげど国で約半年間、日本語を勉強す(し)てきたどあって日常生活の上での言葉のやり取りは困ん(ら)ながった。作業をする上での指示や協力を求める時の前後を略す(し)た言葉のやりとりはさっぱり通ず(じ)なくて、あれを持って来いにも、こっちを先に手伝えも分からず俺もイライラさせられだ。ん(そう)だげど彼の学ぼうとする態度と礼儀正す(し)い姿勢は俺も認めだ。それで人手不足が解消す(し)たわけでは無ャ(無い)げど、臨時にパートで入る人達ど彼の仕事の進み具合は変わりねャ(な)がった。まだ十七の娘だもの外国人実習生とはいえ絵里が同ず(じ)歳ぐらいの若者に興味を持づのは当たり前だったべ。二十歳の青年に日本語を教え日本の習慣を教えだのは今思うど俺や息子より嫁やばあ様より絵里だったべ。絵里の心が恋に変わって行ったって不思議は無ャがった(無い)。
二人が息子夫婦に打づ(打ち)明げだあの時に俺は労働契約書に実習生は日本人とは付き合わないごどど有った文言を思いだす(し)ていだ。息子も実習生を雇う仲間達と一緒の文言にす(し)たのだっぺげど(だろうけど)、よその実習生と連絡を取る時は事前に申す(し)出るごど、外泊は禁止どが随分と人権侵害の内容があるなど俺でさえ思った。
だども息子は二人に反対す(し)ながった。嫁の方が少す(し)ばがり不満だったようで、絵里はまだ大学を終わったばがり、社会に出ればこれがら知り合う人だって一杯いるんだと後で息子に言ったどが。何人の人と知り合っても俺の後を継いでくれるのは出て来っか(来るか)どうが分かんねャ(分からない)。むす(し)ろ絵里が農業に従事する、グエン君と一緒に農業に従事するど言ってくれだのが嬉す(し)いど息子は嫁を諭す(し)たのだそうだ。息子は俺が立派な農業経営者にす(し)て見せる、グエン君をこれからの時代の日本の農業経営者になるよう指導す(し)て行ぐ、俺の新す(し)い役割が出来だど俺に語った。